「闇夜の一族の当主ともあろう男が、餓鬼一人に絆されているというわけか。は、愉快だな」
「……いいか、ルロウ。私はお前を実の息子同然に思っている。そして、シャノンはお前の婚約者だ。娘同然に思うのは当然だろう」

 要するに、ダリアンはシャノンが純粋に可愛いのである。情が移るくらいにはシャノンもヴァレンティーノ家で日々を過ごし、いるのが当たり前の存在になりつつあった。

 本当の事情を伏せてはいるが、ルロウの部下たちや、使用人らもシャノンの身を案じている。
 最近は特に、刻印が薄まってから見せていた屈託ない笑みに癒されていた者が急増していた。皆がシャノンの回復を願っているのだ。

「シャノン、入るよ〜」
「ご飯持ってきたよ」

 そこへ夕食用の液体食を持ってハオとヨキが現れた。
 
「あ、当主サマ〜」
「こんにちは、当主サマ」

 双子は部屋にいたダリアンに軽く挨拶をする。ルロウが居座っているのにはもう慣れているようで、とくに驚くことはなかった。

「マリーとサーラから貰ってきたよ」
「も〜こんな美味しくなさそうなのじゃなくて、早くヨキたちと一緒にご飯食べようよ〜」

 液体食が注がれた器を持つハオの横で、ヨキは縋るように寝台横に腕を乗せた。
 ルロウの体調が良くなっていることは、双子の目から見ても明らかだった。シャノンは自分たちにとって大切なルロウの恩人だ。だから目を覚ましたら早くお礼を伝えたい。そう決めているのである。


「はいはい、ちょっとどいてヨキ」

 ハオはスプーンに一口よりさらに半分くらいの量の液体を掬うと、反対の手でシャノンの頭を支えるようにしてスプーンを唇に近づけた。

 だが、今日はなかなか口を開こうとしない。苦しげに呼吸を繰り返すだけで、酷く消耗が激しかった。