ぽたぽた、と照明に反射して落ちてきた光の粒が鼻の頭に当たり、シャノンは目を丸める。

 湯浴みでもしていたのだろうか。
 半裸姿のルロウの肌や髪には、水滴が付着しており、まだ全く乾き切っていないのがわかる。
 それが堪らなく淫らな妖艶さを放っており、シャノンは見てはいけないものを見ているような気になった。

「ルロウ、どうしたんですか。あの、どいてっ」

 しなやかな腕に捕らわれ、隙間から抜け出すことも不可能で。
 のしかかられた状態では体を起こすこともできず、胸を押し返すようにルロウに触れば、陶器と見紛う滑らかな肌の感触を直に感じてしまいなおさら頭がパニックになった。

「…………」

 こちらを見下ろす真紅の目が、獣のようにじりじりと荒ぶっているようでいて、どこか虚ろさが否めない。
 シャノンが精一杯に身じろげば、艶やかに長い白金の毛先が、頬をくすぐった。

「…………」
(笑った?)

 まるで身体中をまさぐられるような心地の中、ふと見せたルロウの笑みに、ぞっとする。

 ルロウの瞳は、こちらを見ているようで、なにも映してはいなかった。
 薄ら笑っていても人らしい感情は一つも見当たらない。
 それでも男性にしては細く綺麗な指先が、さも当然のように、強ばったシャノンの体へと伸びようとしていて。

 その美しい面差しが、ゆっくりと目の前に近づいてくる。

(……!)

 このままでは、危ない。流れに任せてしまってはいけない。胸の中で響く警鐘に、シャノンは息を思い切り吸い込んで、渾身の声をあげた。

「ルロウっ!!」

 こんなに大声を出したのは初めてだ。
 しかし効果はあったようで、ルロウは我に返った様子でぴくりと肩を震わせた。

「…………?」

 そして、彼の下で強ばったままのシャノンをゆっくりと覗き込むと、

「――ああ、違った」

 こともなげに紡がれた言葉に、シャノンは声を失い唖然とするしかなかった。