「それは、その」

 嫌な気配がしたので来た、という説明もどうかと思い、シャノンは口を噤んだ。
 すると、カーターはどう受け取ったのか、急に慌て出す。

「え、あ……も、もしかして……すみませんオレ、なんて野暮なことを。まさかシャノン様にもそうだとは思わなくて……いやいや、そういうことしなくても会いに行ったりしますよね。そうだそうだ。ルロウ様なら寝室にいると思いますから、こっちです!」
「カーター、ちょっと待っ……!」

 薄暗がりの中、カーターに手を引かれるように廊下を進む。
 階段からルロウの寝室はそこまで遠くはなく、すぐにたどり着いてしまった。

「では、オレはここで……!」

 役目を果たしたと言わんばかりに、カーターはそそくさと来た道を引き返していった。

 ルロウは自室に女性を連れ込むことが多々ある。そして、シャノンは彼の婚約者だ。きっとカーターはそっちの意味で勘違いをしたのだろう。

 何にしても、カーターは最後まで人の話を聞かない少年だった。



「――」
(当主様の声……?)

 ルロウの部屋の扉は、少し開いていて隙間ができていた。
 中から険しい声音が聞こえてきて、シャノンは思わず耳をそばだてる。

「わざとやっているのか? ここ最近の毒素の吸収頻度を考えてみろ――お前、このままじゃすぐに死ぬぞ」