寝支度は整っているが、寝台に潜ってもまだ眠れなそうだ。

 手持ち無沙汰のシャノンが手を伸ばしたのは、ドレッサーの上に置かれた装飾入れ。昼間と同じように蓋を開けて中身を取り出し、照明ランプに照らすように手で持つ。


(洋服も、飾りも、杖も、うれしかった。だけど、このリボンが一番――)


 そのとき、扉のほうからカタンッ、とわずかな物音が届いた。


「サーラさん?」


 最初は、少し前に部屋を出ていったサーラがなにか用事があって戻ってきたのだと思った。けれど、しばらくしても返答はなく、予想がはずれる。

 シャノンはリボンを装飾入れに戻すと、寝台を下りてゆっくりと扉に近づく。

 ドアノブを引いて外の様子を確かめてみたが、そこには誰もおらず薄暗い廊下が続いているだけだった。


「――……」


 気のせいだったかな、と扉を閉めようとしたところで、なにやら呻くような声が細々と耳に入ってくる。


(あっちは階段……いま、少しだけ明かりがみえた)


 もう一度、廊下に顔を出して確認したシャノンは、三階へ続く階段のほうで暖色の淡い光を発見した。遠くからなので確かではないけれど、数人の人影もあったように思う。

 三階はルロウや双子の寝室、そしてルロウの生活圏内に必要な談話室などの部屋が用意されている。
 夜とはいえ誰かが行き来していてもまったく不思議ではなかった。
 それなのに、どうしても気になってしまう。


(何も無かったら、すぐに引き返そう)

 胸騒ぎのような感覚が押し寄せてくる。
 嫌な気配を前に、シャノンはじっとしていることができなかった。