「ハオとヨキは、なにか知っているの?」
「知っているといえば、知ってるけど」
「全部じゃないよ。それに、フェイロウのことだから教えられない〜」
「良い部下をもったものだな」

 皮肉を言うダリアンに揃って「そうでもあるけど」と返す双子。嫌味は二人にまったく通じていない。

「そのお話を聞くと、ルロウはわたしが目障りだったのかもしれませんね」

 シャノンが控えめに肩を落とした。

 ルロウ本人は、浄化を望んでいない。それなのに当主の目論見で浄化をおこなえるシャノンがそばにいたのだ。鬱陶しく思われていたのかもしれない。感情の起伏がほとんど感じられないので、実際にどう感じていたのかは知らないが。

「それはないよ、シャノン。当主サマが用意した婚約者でも、フェイロウは本当に気に入らない人間をそばに置いたりしない」
「女ならなおさらね〜」
「ぼく、シャノンと一緒にいるときのフェイロウをらしくないって言ったけど。嫌いじゃなかったんだ。ちょっと、本気で楽しんでるように見えたから」

 双子の中心には常にルロウがいる。
 ルロウの存在、命令が絶対的な軸になっており、ルロウのためならばなんでもそつなく喜んで遂行する二人である。
 ゆえに、ルロウ贔屓の双子からそんなことを言われてしまうと、シャノンもつい気になってしまうのだ。

 ――つまらん。
 あの日、言い放たれた言葉を反芻すれば、胸の辺りが詰まる感覚がする。
 どう言い返すのが正解だったのかを考えてしまう。
 なにが正しい答えなのかを、その点ばかりに気がとられている。

(腕が飛んできて、びっくりしたわたしを見て……期待はずれな声してた。表情はあんまり、普段と変わらなかったけれど)

 体を震わせたシャノンの反応は、ルロウからしてみると予想内の反応だったのだろう。

(だけど、切られた腕が目の前に落ちてきたら、誰だって驚くよね。それを、つまらないって言われても)

 …………ムカッ。
 ふと、シャノンはこれまで感じたことがない気持ちが自分の中で芽生えていることに気がついた。

(あれ、なんだろう。胸のあたりが)

 
 クア教国に生まれ、教会で育てられ、幼少から聖女のすべてを説かれ、自己超越の宗教観の中にいたシャノンには、欠けているものがあった。
 ――それは、周りに左右されずに自分の感情や考えをさらけ出せる、という当たり前のような自我のある行動意思。

(よくわからないけれど、ムカムカする)

 個性を遠ざけ、無個性を重んじる。
 弱きを助け、愚者を赦す。

 聖女と成るために必要な過程を、シャノンは教会で受けていた。

 そのタガが少しずつ外れようとしている。
 本人も自覚はなかった。