「思ったんだけど、シャノンってフェイロウといるときは、いっつも力が入ってる感じだったよね。そんなに怖かった?」

「怖い? ルロウが?」

「あ〜、蛇に睨まれた蛙みたいにね〜。フェイロウは気にしないで面白がってたけど」

「怖いだなんて、思ったことないんだけどな」

「え、そうなの? でも、中庭のときとか」

「あのときは、あんなに生々しいことが目の前で起こるとは思わなくて。飛んできた腕は怖かったし、固まっちゃったけど、ルロウのことはべつに……」

 強がりでもなければ、嘘をついている様子もないシャノンに、双子は顔を見合わせて「???」と意味不明な表情を浮かべた。

「なんかシャノン、ちょっと変。ね、ヨキ」
「え、変?」
「……う〜ん、というか、なんかズレてね〜?」
「ズレ……」

 どういうことか聞こうにも、双子には「自分たちもよく分からない」と曖昧に流されてしまった。

 シャノンは苦笑を浮かべながら、ドレッサーに置かれた装飾入れに目を向けた。
 蓋を開けて、そっと赤いリボンを取り出す。
 細やかな金の刺繍が端々に施されたリボンは、暗く灰みのある茶色をしたシャノンの髪に映えるだろう。杖にも飾れるものだが、できるなら髪飾りとしてつけたい。
 しかし、結局使うのが躊躇われて、一度も使用していなかった。

「――入るぞ、シャノン」

 蓋を閉じたところで、シャノンの部屋に来客がやってきた。

「当主様」
「当主サマ」
「当主サマだ〜」
「またお前たちは入り浸っているのか」

 シャノンのベッドに寝転がるヨキと、ベッドの端に座って紅茶を啜っているハオの姿に、ダリアンが呆れた様子で言った。
 双子は「シャノンがいいって言ってるもん」「そうだそうだ〜」と言い返していたが、ダリアンは半分無視してシャノンに目を向ける。

「どうやら、ルロウが飽きたらしいな」
「そう、みたいですね」
「当主命令とはいえ、それなりにうまくやれていると思っていたんだが。やはりあいつの悪い癖・が出たか……」
「……あの、やっぱりまずかったでしょうか」
「その話の前に、お前は問題ないのか?」

 ダリアンはシャノンの顔を窺い見た。
 心配そうな顔をしている。先日の件を少し申し訳なく思っているようだ。

「それは、大丈夫です」
「本当か。人の腕が、飛んできたんだぞ?」
「もちろん、とても、びっくりしました。あまり思い出したくはないですし……」

 遠い目をしたシャノンに、当主の威厳を一度置いたダリアンが「すまない」と口にする。

「当主様。どうか謝らないでください」
「いや、やはり先に言うべきか考えてはいたんだが。ルロウのことで、お前にまだ話していなかったことがある」
「……?」
「実を言うと、あいつは元から毒素の浄化を望んではいなかったんだ」

 嘆息をこぼしたダリアンに、どういう意味かを考える。
 毒素の浄化。
 それは、大陸中の誰もが喉から手が出るほどに欲している奇跡だ。
 毒素の吸収が責務となっている闇使いならなおさらシャノンの力は必要だと断言するだろう。


「なにか、浄化を拒む理由が……?」

「詳しくは聞けなかった。はぐらかすばかりだからな。だが、あいつが言うに――生の実感を得たい、ということらしい」


「生の、実感……?」


 思わず双子の反応を確認すると、二人とも訳知り顔で目を泳がせていた。