施設から出ると、日は少し傾き始めていた。
 馬車を停めている乗り場まではいささか距離がある。街中を突っ切ることで距離の短縮にはなるが、それでも10分ほど時間がかかった。

(う……脚が、痙攣してる)

 こんなに長く歩いたのは数年ぶりだったため、シャノンの脚は疲労が溜まり震えがではじめていた。

「シャノン?」
「どうしたの〜?」

 突然立ち止まったシャノンに双子は首をひねる。
 シャノンは杖に全体重をかけ、なんとか立ち直すと再び足を前に出した。

「日が暮れる」
「あっ」
 
 突然、シャノンの足裏が地面から浮いた。
 お腹に圧迫感が伝わってきて、弾かれるように首を動かすと、ルロウの薄い白金色の髪が靡く後頭部が目に入った。

「わ、フェイロウが抱っこしてる」
「いいな〜」

 地面との距離が遠い。シャノンは軽々とルロウの肩に担がれていたのだ。
 こちらを見上げている双子の姿が新鮮だったが、それよりもこの状態のまま歩き始めているルロウに混乱してしまう。

(こ、このまま街の中を歩くの……?)

 もたもた歩こうとしているシャノンを見かねて担ぎあげたのだろうが、いかんせん目立ってしまう。
 落ち着かなくて足をパタパタ動かしていると、ルロウが「おまえ、どこか臓器がかけているのではないか」と言った。

 ルロウは一向にシャノンを離すことはなく、自分のペースで歩を進める。またしてもなにを言っても聞き入れてもらえない状態に、シャノンは脱力してしまう。

 案の定、道行く人には奇怪な目を向けられてしまったが、ルロウはどこ吹く風だった。

(……? なんだろう、この混じった匂い)

 時々ふわりと香ってくる。
 ひとつは、ルロウからいつもかおってくる西華国のお香。

 それとは別に、強い花のような甘やかな香りと、かすかに鼻につく鉄の錆びたような匂いがした。