「――すぐに鎮まる」
「ルロウ、」

 小さく呼んだ声に、ルロウの真っ赤な双眸がシャノンを捉えようと揺れ動いた、瞬間。

「フェイロウ、シャノン、おまたせー」
「意外と混んでて遅くなった〜」

 屋台から戻ってきた双子は、シャノンとルロウを交互に見たあと、動きをとめた。


「ハオ、ヨキ。おれはしばらく離れる。ここからは、シャノンのそばを決して離れるな」
「了解」
「了解〜」


 何かに突き動かされるように、ルロウは人混みの中に消えていく。
 ルロウの様子が心配になったシャノンは、振り返ってその背に声をかけようとするが――


「シャノン、ダメだよ。いま、フェイロウに話しかけたら。ちょっと用があるみたいだから」


 知ったような口ぶりで笑いかけるハオは、しっかりとシャノンの手首を掴んで制止する。


「だけどルロウ、様子が」
「……毒素、吸収したんでしょ。ここを離れたってことは、ぼくたちと同じ過剰有毒者の」
「そう。だから、一人にするのは心配だよ」


 シャノンの真っ直ぐな眼差しに、ハオは眉を下げて力なく笑った。


「いまのシャノンが行ってもなにもできないよね。体の中の魔力を空っぽになるまで使って、それどころじゃないって話聞いたもん」
「……」
「だからこそ、シャノンは近づいちゃダメ。ああいう状態のフェイロウは、本気になられたらぼくたちでもかないっこないから」
「状態……闇使いが毒素を吸収すると、体調が悪くなるんでしょう? かなわないって……?」
「うーん、色々と」


 引っかかる言い方をしたハオに聞き返しても、それ以降は曖昧な返答が続くだけだった。きっと、勝手には言えないことだったのだろう。

(二人は、いつも元気で、無邪気で、わたしと仲良くしてくれる。だけどいつも、目の前に見えない線を引いている。その違和感は、なんだろう?)

 結局、ルロウの行き先はわからないまま、シャノンは双子とともに施設へ向かうのだった。