「中身は餡子っていう、豆を甘く煮詰めて練ったものが入ってるよ。これもぼくが作ったんだ」
「ハオが? ありがとう、いただきます」

 表面から蒸気が上がっている包子を受け取り、シャノンはひと口かじる。
 口に入れた瞬間広がるやさしい甘みに、シャノンの頬がほのかに染まった。

「甘くて、とってもおいしい」

 これまで味わったことがない甘味に驚きと感激が同時に押し寄せる。思わず黙々と食べ進めていると、横から視線を感じてそのまま動きをとめた。

(見られてる……ルロウ様に……)

 先ほどまで我関せずな態度でいたルロウが、珍しく少しはしゃいだ声を出したシャノンに反応を示したのだ。

「…………」

 席も隣である。自分の視線をシャノンが気づいていることも察しているんだろう。ルロウはあえて何も話さずに、シャノンが自分のほうを向くのを待っているようだった。

 シャノンが意を決して横をちらりと向くと、すぐにルロウの赤い瞳が視界に入ってきた。ばちっと目が合い、捕食される獲物のような気持ちでシャノンは固まった。

「おいしいか?」

 気でも向いたのだろうか。
 問いかけるルロウの声調が、いつもよりやわらかく響いたような気がして、シャノンは急いで口に入れていた包子を飲み込む。

「っ、はい、おいしいです」
「そうか。なら、これもやろう」

 ルロウは一口サイズのクッキーを指でつまむと、躊躇もなくシャノンの唇までもっていく。乾いたクッキー生地が下唇に当たり、ビクッと肩が揺れる。

 ――瞬間、談話室には静寂が包まれた。

(これは)

 目と鼻の先には、芳しくちょうど良い焼き目がついたクッキー。
 
「ほら、どうした?」