「当主様の意向だからです。だからわたしは、婚約者として、ここにいます。それ以外に、理由が必要でしたでしょうか」
「――そうか」

 刹那の沈黙のあと、無感情なルロウの眼差しが楽しげに揺れる。
 口端を釣り上げて、身を竦ませるシャノンに言った。


「ろくに思考せず、素直に口を滑らせようものなら、思わず手が出て殺すかもしれなかった」

 ルロウは愉快そうに表情をやわらげる。
 背筋がひやりとした。

「え……」
「おれが、そのような人間を大人しく婚約者にするわけがない」

 問われた意味はわかるけれど、あまり理解が追いつかなかった。
 きっと素性を素直に話すことは、ルロウの意に沿わないものだったのだろう。
 ただすでに晒された事実だけを改めて口にしたシャノンを、双子は好意的な様子で見ていた。
 
「あはは、シャノン。実はぼくたち知ってたよ」
「毒素を消せる、聖女だって〜!」
「そう、だったの?」

 くすくすと笑いを堪える双子は、揃ってうなずく。
 つまり、あらかじめダリアンから教えられていたということなのだろう。双子まで知っていたというのは予想外だったが。

 唖然としたシャノンに、双子はさらに付け足す。


「心配しないで、シャノン。シャノンのことは絶対に秘密にするから」
「うんうん。バラしたら、舌を切って死なないといけないもんね〜!」
「し、舌を切る!? さすがにそこまでは」
「そんなに驚く? だって、当然でしょ。フェイロウの命令を破ったことになるんだから」


 さも当然のように言って、ハオは「ね、フェイロウ」と彼を呼ぶ。
 ルロウは、ここにきて一番の笑みを浮かべた。


「おれの命令が聞けないやつは、いらない。それだけだ」


 それは甘美で、狂気的な、魔性の微笑み。


「……」
「さっすがフェイロウ! ぼくたちの香主だね」
「ヨキ、フェイロウのそういうところ大好き〜!」


 言葉に詰まるシャノンとは正反対に、双子のはしゃいだ声がやけに食堂をこだましたのだった。