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 祈りは、とおに尽きた。
 聖なる女人の栄光は、いつ奇跡をもたらしてくれた?
 何年も何年も。正しいものだと信じてきた教えが、万人を救うものではないのだと、身をもって知った。

 ――ああ、また。暁の光がやってくる。
 祝福の光とされるそれを、何度恨めしく思ったことか。

 こんな気持ちを抱いてしまうわたしは、もう聖女にふさわしくないのだと思う。




「ひいいい! 助けてっ」

 見世物小屋に男たちの悲鳴が反響する。
 手足を拘束されたまま、シャノンは被りの中からぼう然と虐殺を目にしていた。
 先ほどまでの酷遇で、体の芯は冷えきっている。
 けれど、彼が現れたことにより指先に温度が戻りはじめていた。


「おかしいな。人身売買も見世物小屋も、ヴァレンティーノはずいぶん前に禁じたはずだ」


 その口調はどこか喜悦が滲んでいた。
 話す速度さえも睦言を囁くように悠然で、しかし振り下ろす刃は恐ろしくはやく鋭さをもっていた。
 

「ち、違います、これは違うんです! どうか命だけはっ」
「違う? おまえの目には、おれと違う景色が見えているのか?」


 青年は首をかしげる、そして、口の端を歪めた。


「ひいいっ、お願いします、見逃して……っ」
「…………はぁ〜、聞くに絶えない命乞いだ。自分が撒いた種の処理は自分でつけるものだろう。まあ、おまえの微々たる心臓じゃあ足しにもならんが」


 真っ黒なローブの下で、発せられた青年の愉快そうな言葉に男は震え上がった。

 逃げ出そうと背を向けた瞬間、青年の剣が素早く動く。

 背後から左胸を一突き。シャノンを散々利用していた見世物小屋の男は、呆気なく絶命した。


「――おい」
「……っ!!」