「入るぞ」


 シャノンの食事が一息ついた頃、ダリアンが部屋に入ってきた。
 ヴァレンティーノの当主という立場にあるため多忙なはずなのだが、必ず毎日シャノンの様子を確認するためにやってくる。


「今日はこれだけ食べられたのか」


 テーブルの上にある空っぽのスープ皿とグラスを一瞥し、ダリアンはシャノンの頭を撫でる。

 あきらかに年齢より下に扱われているが、不思議と嫌な気はしない。むしろ安心感すらあった。

 逆らう者には容赦がないヴァレンティーノというのでもっと構えていたのだが、無条件に残忍というわけではないらしい。


「急だが、これからルロウの元に行く。ようやく顔合わせだ」
「いまから、ですか……?」


 驚いて聞き返すシャノンの後ろで、マリーとサーラの戸惑う息づかいが聞こえてきた。
 ダリアンは無言で頷くと、シャノンに近寄って軽々と体を抱えあげる。


「あの当主様、この格好はちょっと」

「なんだ、まだうまく歩けないんだろう。ルロウの部屋は三階の端でお前にとったらかなりの距離だ。私が運ぶほうが効率がいい」

「だけど、わたしを抱えてなんて、ほかの人に見られても大丈夫ですか?」

「披露目にちょうどいいだろう」


 すまし顔で部屋を出ていこうとするダリアンに、シャノンはぎゅっとしがみつく。

 唐突に部屋に残されるマリーとサーラのほうを見れば、二人は両手を組んで祈るような格好をしていた。