ヴァレンティーノ家に保護され、早くも二週間が経った。
 いまだシャノンは、ルロウに会えていない。


「シャノン様、本日はこちらのお召し物にしましょう」
「頭の飾りはいかがいたしましょうか。どれもお似合いなので迷ってしまいますねぇ〜」


 衣食住を提供するというダリアンの言葉に嘘はなかった。
 シャノンはこの二週間、手厚くもてなされ、メイド二人から恐縮するほど丁寧に扱われている。


(顔色、少しはよくなったかな……?)


 二週間前、数年ぶりに見た自分の顔は酷いものだった。

 目には濃い隈、頬は痩けて唇はガサガサ、血色は死人のように蒼く、よくダリアンは毅然とした態度で話してくれたなぁとシャノン自身が思うほどである。

 まだ貧弱ではあるけれど、数年ぶりの安眠と体に優しい食事のおかげでかなり顔色はマシになった。


「さあ、今日もばっちり可愛くお支度が整いましたので、お食事にしましょうね」
「ありがとうございます。マリーさん、サーラさん」


 お礼を言って椅子を立つ。


「シャノン様、こちらにお掴まりくださいませ」


 サーラの腕に掴まり、ゆっくりと歩く。
 わずかに左脚を引きずるようにして歩行するシャノンは、マリーが用意した食事の席につく。


(まだ、うまく歩けない。部屋の中で練習は続けているけど、むずかしい)


 一番最初に左脚の筋を切られたのは、もう四年も前のことだ。

 それから傷が癒えるたびに同じ場所を切られ続けた。万が一にもシャノンが脱走しないための対策と、逆らう意欲を削ぐための行為は、傷が塞がっても後遺症が残ってしまっている。

 見世物小屋の中では歩くことも少なかったので、筋力も衰えてしまった。長く歩くにも人の手を借りないといけないことが、歯がゆくてしかたない。


(自分で、自分を癒せたらいいのに……)


 癒しの力は他者にしか効果がない。

 ほかの聖女ならうまく治せるのかもしれないが、教国から聖女が出ることは原則禁じられている。いまのところ後遺症のある脚とうまく付き合っていくしかない。

 食事も同様、軽いものしか胃が受け付けないので、今朝もスープ皿と果物、野菜をすりおろしたジュースでお腹を満たした。