「ルロウ様の婚約者様……とても幼い印象を受けましたが、一体どちらのご令嬢なのでしょうか?」
(それをおまえに教える必要はあるのか?)

「デビュタントもお済みでないのでは? ルロウ様はとても女性の扱いに慣れていらっしゃいますし、物足りないのではなくて?」
(こいつ、死にたいのか)

「ルロウ様。わたくし、ヴァレンティーノを誤解していました。まさか次期当主となられる御方が、こんなにも素敵なお人だったなんて」
(……聞くに絶えんな)

 ルロウのそばを離れようとしない女性たちは、自分たちの売りをよく理解している。
 細くしなやかなくびれ、豊満な胸部、柔らかな肌。
 女性特有の武器を使って撓垂れ掛かり、ルロウを誘惑しようとしているのだ。

 少し前の自分は、彼女たちのように割り切った関係を求めてくる連中を好ましく思っていた。特別を知らなかったから。


(……人の気も知らず、あどけない顔で、眠っているんだろう)

 重症だ。こんなときでも思い出してしまうのは、シャノン以外にいないのだから。


『フェイロウ!! 大変!!』

 血相を変えて会場に飛び込んできたのは、ヨキと一緒にシャノンの護衛を頼んでいたはずのハオだった。

 緊急の際は一人がルロウの元に走って知らせることになっている。
 ここに来たということは。
 
『シャノンの体が……様子が……!!』
「…………!」

 焦って西華語を話すハオの声が聞こえた瞬間、ルロウは脇目も振らずに女性たちの間をすり抜け、素早く会場を出ていく。
 ハオから詳細を聞くよりも早く、ルロウはシャノンの元へ急いだ。



 ***


 シャノンが眠る客室の扉を乱暴に押し開いたルロウは、寝台横で佇むヨキを視界に捉えた。

「なにがあった」
『シャ、シャノンが……シャノンが……』
 
 いつも気が抜けるような口調のヨキも、西華語を話して口をパクパクさせている。
 ルロウは寝台にいるシャノンに目を向け、言葉を失った。



 薄暗がりの寝台の上、呑気な寝息が聞こえる。


「……おまえはいつも、おれの想像を超えてくる」

 窓から入る淡い月光に包まれ眠っているのは――大人びた空気をまとい、美しく変貌した、シャノンの姿だった。