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 つまらん夜会に参加してしまったな、とルロウは胸の内で吐露した。
 理由は明白、先にシャノンが寝落ちしてしまったからだ。

 会場に入って早々に眠りに落ちてしまったので、ルロウは皇太子が予め用意していた客室にシャノンを寝かせに戻った。
 双子がシャノンのそばについて見張ってくれているので心配はない。だが、パートナー不在となった今一人で会場に戻る意味などないだろうと思う。

(鬱陶しい)

 それでも皇太子から言われていた皇族の体裁を配慮し、会場に戻ってきたルロウは、捌いても捌いても寄ってくる貴族の女性たちにうんざりしていた。

(それにしてもあの顔は、実に見物だった)

 公共の場で「婚約者に望む女性」と言ったルロウの意図に気がついたシャノンは、丸く愛らしいオリーブ色の瞳を震わせていた。

 あの間の抜けた表情を反芻していれば、貴族女性の群れの中にいようとルロウはイライラせず儀礼的な笑みを浮かべていられる。
 自分が考えるよりもずっと、シャノンという人間は、ルロウの緩和剤としての役目を果たしていた。

(…………なにを、言おうとしていたんだ?)

 ルロウはシャノンが眠る前に言いかけていた言葉を考える。

 否定も、なにも。
 その先なにを言おうとしていたのだろう。

(唐突に眠ったのは、刻印解除の反動だろう。…………そろそろ、頃合いだな)

 時刻はすでに日をまたごうとしていた。
 出席者のほとんどはいまだ帰る様子はなく、思い思いに楽しんでいる。
 
 なによりも、女性たちから感じる熱視線にルロウは嫌気がさしていた。
 以前の自分であったなら、良さそうな女を捕まえて後腐れない夜を過ごしていただろう。
 しかし今はどうだ。濃すぎるくらいの香水も、肌に染み付いた白粉も、すべてが鼻について仕方がない。