外から扉が開けられ、まずはダリアンが先に降りていく。
 続いてルロウ、最後にシャノンという順だ。

(杖は持ってきたけど、それでも転ばないように気をつけないと)

 ぎゅっと杖を握りしめて馬車を降りようとしたシャノンは、目の前に差し出されたルロウの手に気がついた。
 前に一度、中心街に出かけたときもエスコート(あの時は婚約者ごっこ中で妙に優しくされた)をされたのを思い出しながら、シャノンはありがたく手を置かせてもらった。

「え……!?」

 だが、なぜか突然手を前に引っ張られたことで、体勢を崩したシャノンは、馬車から転げ落ちそうになってしまう。
 せめて足から着地できるようにと備えていたら、地面に足が触れる前に、体がふわりと宙を浮いた。

(これって)

 顔をあげ、少し斜め横を向くと……すました顔のルロウと視線が重なり、シャノンは目を見張った。

「どうしてわたしを抱えているんですか!」
「おまえの歩行を待っていたら日が暮れる」
「だとしてもこんなところではっ」

 抗議を入れようとしたところで、大きな咳払いが聞こえてくる。
 いつの間にかシャノンたちの目の前には、貴族の風格溢れる四十代半ばの男性が立っていた。

「ヴァレンティーノ伯爵家当主、並びにご子息。登城に応じて頂き感謝する」

 続いてシャノンに目を向けた男は、少しだけ瞳を見開くと、二人と同じように礼をとった。
 男性はルロウがシャノンを抱えていることに関しては一切触れず、すぐに城内へ通され、謁見の間まで案内される。

 案内の途中、シャノンは城内にいる多くの貴族や官僚らの視線を浴びることになった。

 シャノンの存在もだが、詳しい事情を知らない貴族たちのほとんどは、優美な華衣を纏うルロウに釘付けだったように思う。


 ヴァレンティーノ家当主と共にいる華衣も着た麗人。

 今まで具体的な風貌すら知らなかったわけだが、貴族らは彼こそが次期当主のルロウ・ヴァレンティーノであると、確信付けていたのだった。