教会を追放されてクア教国を逃げ出し、身寄りも頼るあてもないためヴァレンティーノ家で保護して貰うことになったシャノンは、条件としてルロウの婚約者になった。

 そこにはルロウの毒素を浄化させたいがため、シャノンを近づかせたというダリアンの意図が含まれていた。表向きは「婚約者」でも、それは暫定で決められたものなのである。

 遠い未来のことなど想像もしていなかったシャノンだが、いずれ暫定婚約者という立場には、終わりがくるものだと思っていた。


 しかし、違った。


『この先、おれの本当の婚約者になるというのは、どうだ』


 いつもの気まぐれでもなければ、人の神経をわざと逆撫でしようとして発せられたものでもない。
 ルロウは本気でシャノンを自分の婚約者に決めようとしているのである。


『本当の婚約者……』


 そんなルロウの真意を尋ねる前に、疲労と緊張が溜まりに溜まっていたシャノンは、恐ろしい睡魔に襲われ意識を朦朧とさせた。

 融通が利かない自分の体を恨めしく思いながらも、どこかほっとした気持ちで意識を飛ばしたのが、昨夜までの話である。