「……こんな風に、誰にでもかわいいとか言うかな」
「い、言わない」
聖里くんはそんな人じゃない。
分かってた。
学校ではいつもクールで、無表情で、絶対に表情を崩さない。
松野くんと話してるとき、ごくまれに笑ってたりして、それが女子の間ですぐニュースになったりする。
それくらい、表情を変えるのがレア扱いされるひと。
「……なぎさは俺が家だと表情変わるんだな、くらいにしか思ってないかもしれないけどさ」
「うん?」
「家だからじゃない。……なぎさの前だからこんなに素直な気持ちが顔に出るんだ」
心臓が、痛いくらい跳ねた。
暗い部屋の中、ほんのり赤く染まった聖里くんの横顔に見とれている。
……夢、だったら、嫌だな。
同級生の女の子みんなが求めている男の子。
榛名くんの彼女になれたら、って。何度も聞いた。
高嶺の花だった、聖里くんは。
そんな彼がいま、わたしの前で顔を赤くしている。
……信じられない、けど。
「その、つまり……俺、なぎさのことだけは……特別、だから」
声が出せなかった。
聖里くんの真意を読み解くのに必死で。
まだわからない。
その言葉の意味を、知らない。
特別、とか。
大事、とか。
どれだけの重みを抱えている言葉なのか、知る日が来るまで待っててもいいかな?