「平田ぁー、萌絵ちゃんがお前と話したいって!」
「まじ? ごめん、俺ちょっと行ってくるね」
謝られなくたってわたしはあなたが離れてくれてほっとしてますし。
ちょっと女の子に呼ばれたくらいで人気者気取っちゃって。
……たぶん、本当のモテ男である聖里くんを見たら腰抜かすよ?
てか、最っ悪。
香水の匂いついたかも。
はやく帰って洗濯したい。
こんな匂いのまま聖里くんに会うの、すごく不快だし。
「こらなぎちゃん、いくら嫌だからってそんな暗い顔しない!」
「だって……」
「だいたい、なぎちゃんは好きな人がいるわけでもないんだし、何が不満なの?」
芙実ちゃんに話しかけられて、抜け出すならこの瞬間しかない、とタイミングをはかる。
何が不満って、全部に決まってるでしょ。
この空気、騒がしさ、匂い。
知らない男の人にべたべた触られるのも不愉快。
イコール、帰りたい。
「芙実ちゃん、わたしもう帰る」
「え? まだはじまったばっかりだよ?」
幸い、部屋の扉の一番近くだったこともあって、芙実ちゃんの制止も聞かず一直線に出口へ向かっていた。
もう要件を聞かずに芙実ちゃんの誘いに乗るのはやめる、絶対やめる……!
はやく家帰ろう。
そして、この香水の匂いが聖里くんにバレませんように……!
わたしは潜在意識でそう思っていたけど、その理由は自分でも分かってないままだった。



