なぎさの風邪が治ってからの金曜日、相変わらずキャンキャンうるさい女子に囲まれたけど、やっぱりなぎさから目が離せなかった。
思わぬ形で同居することになったけど、まだまだ俺の知らないなぎさはいっぱいいて。
高坂と笑いあってるなぎさは心の底から楽しそうだから、いつか俺もそんな顔させてみたい……なんて考えるしかできなかった。
「見すぎだろ」
向かいに座る朝日に声をかけられて、ハッとする。
昼休みの食堂は騒がしいけど、誰の声も入ってこないくらい、俺の視線はなぎさに一直線だったらしい。
いつも弁当かパンだから、今朝、「今日は芙実ちゃんと食堂でたべるからお弁当いらない」って言われたとき、俺も食堂にしようと決めた。
騒がしいのが得意じゃないなぎさが食堂でなんて珍しいな……って考えてたら、自然となぎさに吸い寄せられる。
こっち、気づかないかな。
「マジで好きじゃん、ウケる」
「……笑うな」
「笑ってないでーす。てか、どこが好きなん? なんで好きになったわけ」
……なんでだっけ。
俺は過去のことを振り返って、はじめてなぎさを認識した日のことを思い出す。
なんでかは思い出せるかもしれないけど、どこがっていう質問には答えられない。
答えてたら日が暮れるから。
……全部好きなんていう薄っぺらい言葉じゃ終わらせたくない。
そこらの女子が俺に向けてくる上辺だけの好意と一緒にしたくないから。