夜、19時くらい。
聖里くんが、「あっ」と声をあげた。
「びっくりした……なに?」
「夜ご飯、何食べたい?」
「え、うーん……なんでも、いい」
「なんでもいいが一番困る」
聖里くんは眉毛を下げて笑った。
ソファでテレビを見てるわたしのほうに近寄ってきて、後ろからソファの背もたれに両手をつく聖里くん。
ち、近い。
近くないですか、距離。
「無難にハンバーグとか、どう」
「いいね」
「じゃあ買い出ししてくる、早くいかないとスーパー閉まるし」
そういって離れた聖里くんの腕を、咄嗟につかんでしまった。
「ご、ごめっ……」
慌てて離そうとして、今度は聖里くんがわたしの腕をつかんだ。
細いのにほどよく筋肉のついた腕。
やっぱり男の子なんだなあ、と再確認して、心臓が鼓動を早めるのを気づかないふりした。
「なんでつかんだの」
「……な、なんでって。わたしも一緒に行こうと思って」
「なぎさは待ってていいよ? 外もう暗いし、歩くし」
「いや! 聖里くんだけに任せるのは気が引けるので!」
夜道は好きじゃないけど、聖里くんと一緒だし。
大丈夫、だから。
「そ? じゃあ行こうか」
「うん」
パッ、と離された腕。
なんだったの……。
手首がまだ熱を帯びて暖かい。
わたしは立ち上がって軽く上着を羽織り、もう玄関で靴に履き替えている聖里くんの後を追った。