( 有馬 SIDE )
はじめは、笑うと目が細くなるのがかわいいなあ、って思った。
クラスが違ったからあんまりしゃべる機会はなかったんだけど、目が合うとよく会釈してくれて、「おはよう」とあいさつすると、少し小さめの声で「おはよ」って返してくれた。
それでも友達といるときは楽しそうに笑ってて、俺はそんな顔みたことなかったから……率直に、羨ましかった。
だけどそのときはたぶん、まだ恋心なんて呼ぶには浅すぎたんだと思う。
俺にとってのなぎさちゃん。
廊下で見かけたらちょっと嬉しくて、
ほんの少し、挨拶だけでも交わせたらちょっとラッキーで、
遠くから見ているだけの、手の届かない子。
「ねーえ、なんで最近素っ気ないの? 周音ー!」
隣で騒ぎ散らす伏枝。
……を、引き連れて意味もなく廊下に出たりした。
あ。今日も友達といる。
折田さんって大人しいのに意外とずっと誰かといるから、話しかけるタイミングないなあ。
だから、ちょっとでもこっちに気づけばいい。
俺の顔を覚えてくれればいい。
そう思って、伏枝を出汁にしてなぎさちゃんの気を引こうとした。
……こっち向いてくれた。
教室に入っていく直前、一瞬だけこっちを向いた視線に、俺はどうしようもなく高揚したりした。



