高校二年の秋。
華の……といっていいのかわからないけど、それなりに晴れやかで平穏な毎日を過ごしていました。
春はみんなとクラス発表で盛り上がったり。
夏は友達で花火大会に行って、海に入って……。
何不自由なく、まったくもって健康そのもの!
だったはずなんだけど……。
「……おはよ、なぎさ」
すらっと通った鼻筋に、二重で綺麗な両目。
本当に男子? って疑うくらいの白い肌に細身の体。
それなのに程よく肉付いていて、男女問わず視線をかっさらう……。
サラサラと揺れるその人の髪の端が視界に映って、わたしは数回高速で瞬きをした。
呼吸の仕方も忘れてしまうくらい近い距離で名前を呼ばれて、一瞬現実か夢かわからなくなった。
「……お、はよ……」
しどろもどろになりながら挨拶を返すと、
”表情を崩さない”彼の、柔らかなほほ笑みがわたしの目に飛び込んできた。
「今日もかわいい……」
本当に、わたしに向けられた言葉なのでしょうか……?
だって、あのクール王子がわたしに”かわいい”だなんて……。
学校でばれたら、一瞬で女子全員の反感を買ってしまいそうな現実。
そうやってぼーっと彼の顔を眺めていたら、次第に顔と顔の距離が短くなっていることに気づいた。
「っ……わ、ちょっ……な、なにしてっ!?」
わたしが押し返せば、彼はやっぱり口をとがらせるなど”表情を崩して”、
「え、俺の顔じっと見てたから、キスしてほしいのかと思って」
そんなことを言うもんだから。
……キス、してるところ想像して顔が熱くなったなんて。
絶対、言ってあげない。
そうしてはじまった朝は、本当に本当に最初の一日目に過ぎなくて。
これが毎日続くのかって考えるだけで、息が詰まりそうだった。
……こうなったのも、ほんの数日前、限りなく直前の、数日前にさかのぼる。