三学期も期末試験を終え、緊張から解放された学生たちも終業式を待てば春休みに入る。

 近頃は寒さも少しずつ和らいで、すぐそこに暖かな春が待ち構えているような、そんな予感のする放課後。

「俺も欲しいな、それ」
「えっ!?」

 一人教室に残り友達に頼まれたクマの小さなマスコットを縫っていたところ、背後から突然話しかけられ驚いた私、野間《のま》雫《しずく》は肩をビクつかせた。

 聞き覚えのある声に振り返ると、右肩に通学バックをぶらさげ制服のズボンに手を突っ込んでいる、隣のクラスの陣内《じんない》航介《こうすけ》が立っていた。

 彼に話しかけられること自体が珍しく、心底驚いて変な顔で見上げてしまった。

「あ……え? これ欲しいの?」
「うん」

 私の椅子の後ろに立って見下ろしている背の高い航介。
 座って見上げている私は首が疲れそうだと気にしながら疑問に思った。

「陣内くん、クマ好きなの?」
「…………うん」

(長い間《ま》だな)

 確かに彼は私の手元をじっと見ている。
 男の子なのにこんな可愛らしいクマが好きなんだ、と意外な趣味に驚いた。

「今は友達の作ってるから、余力が残ってたらでいい?」
「うん、わかった」

 突然あらわれた航介に驚きつつも、返事をしたあとそのまま帰るだろうと思っていたのに、私の横を通ってひとつ前の席に座りまたじっと手元を見てきた。