私が知らなかっただけで、母は何度となく、修行中の私に会うため、教会に足を運んでいたらしい。

魔力量が増す一方で情緒が不安定だった私は、ふとしたきっかけですぐ魔力を暴走させていたため、神父の判断で面会が許可されなかったのだろう。

つらい日々を過ごす中で母親に会えば、どうしても甘えが生じてしまう。大人になった今ならその神父の判断は正しいと理解できるが、当時の私には無理だった。

その後、魔力をコントロールできるようになって強く大きな力を手にした私は、周りにいた全ての大人を見下して反抗の対象とした。

心身共に成長してようやく落ち着きを取り戻し、両親と和解したのは16歳の時だった。他に類をみないほどの魔力を持っていた私はそのまま教会で働くことを決め、両親もそれに賛成してくれた。

そして更に2年後、神父の勧めで神殿に行くことになり、家族と故郷に別れを告げたのだった。和解してからの2年間はまめに連絡をとって交流していたものの、10歳で家を出たせいか、私は家族に執着がなかった。

神殿と実家を往復するだけでも1ヶ月半かかり、帰省するとなれば2ヶ月は神殿を離れることになる。

エリートが集まる神殿においても私の魔力はトップクラスであり、慢心しなければ教皇になることも夢ではないと言われていた。私にとっては家族よりも修行を続けることの方が重要だったのだ。

そして30歳の時に前教皇が崩御され、次期教皇として私の名前があがった。実力は申し分ないがあまりにも若過ぎると反対する声も多く、揉めに揉めた。

「私はもう長くは生きられない。次の聖女の親代わりになる人がお爺ちゃんじゃ可哀想だから、彼が丁度いいと思うわ」

聖女のこのひと言で私が教皇になることが決まったものの、反対勢力を抑えるだけでも大変で、あっという間に月日が流れた。

聖女がいつどうなってもおかしくない状態となっていた時、母が倒れたという報せを受けた。さすがの私もすぐに駆けつけたい気持ちになったが、もしもの時は召喚の義を執り行う必要があるので、神殿を離れるわけにはいかなかった。

結局聖女はそのまま身罷られ、速やかに次期聖女を召喚したはずが、聖女が神殿に降臨しなかったため、次から次に問題が起こった。

その最中に母が亡くなり、それを追いかけるように父も亡くなった。

知らせを受けてもどうすることもできず、衝撃のあまり、私は泣くことすらできなかった。