「レオさ、、ま?」

呼び止められたりかちゃんが振り返り、一点を見つめたまま動きを止め、瞳を揺らす。

駆け寄ってきたキラキラが以前と変わらぬ糖度で語りかけると、無反応にも思えたりかちゃんの揺れた瞳から、とめどなく涙が溢れてこぼれ落ちた。

彼女の腕の中でその様子を見上げていた俺は、耐えきれず、先に食堂に入ったあきらを追う。

前世でりかちゃんが泣いたのは、病気が発覚した時だけだった。

りかちゃんの喜ぶ顔が見たくて、幸せそうに笑う顔が見たくて、それが俺の全てだったから、悲しい顔や苦しい顔なんて絶対にさせないと決めていた。

俺は間違っていたんだろうか、、

初めてそう思ったのは、結界から出てすぐの頃、キラキラの腕の中で気を失うまで泣いたりかちゃんを目の当たりにした時だった。

元々感情の起伏が少ないりかちゃんが、わかりやすく感情を表に出すようになるまで、かなりの年月を要した。

そんなりかちゃんが、辛くて苦しかったという激しい感情を、出会って間もないキラキラへさらけ出したことに、少なからず衝撃を受けた。

生まれ変わったりかちゃんは、俺の知ってるりかちゃんと、少し雰囲気が違うなと感じる。

キラキラ達と旅をする彼女はその表情をクルクルと変え、イキイキとしたその様子は、あまりにも眩しかった。

笑っているりかちゃんを見ていたいという俺の願望のために、俺は彼女に負の感情を我慢させていたのだろうか。

りかちゃんと過ごした8年間は、優しく穏やかで幸せな時間だった。りかちゃんだって、きっと同じように感じてくれていたはずだ。

でも、もし前世で俺達の前にキラキラが現れていたら、、そんなありもしないことをグルグルと考えては、それを打ち消す。

見たことのないりかちゃんを目にする度に、色んな意味で心臓を鷲掴みにされる。

そして今も、、キラキラが迎えに来たのが嬉しくて涙するりかちゃんを目にし、胸が張り裂けるような痛みを感じた。

俺はりかちゃんを泣くほど喜ばせたことはない。

りかちゃんは、俺よりキラキラの方が、、

もし今、サルじゃない前世の俺がりかちゃんの目の前に立てたら、彼女は同じように泣いてくれるのだろうか、、

またそんなしょうもないことを考えていたら、外からあきら達の言い争う声が聞こえ、思考を引き戻される。

教皇に宥められ、みんなが食堂に入ってきたが、りかちゃんとキラキラはまだ外で何か話しているようだった。

「元気出せとは言えませんけど、愚痴ならいくらでも付き合いますよ」

あきらがバナナを差し出しながら小声で話しかけてくる。そんなあきらの気遣いに心が少し救われる。さっきのらしくない親子喧嘩も、きっと俺のためだったのだろう。

あきらのくせに、随分と泣かせることをしてくれるじゃないか。

『心の友よ!』

そう言って、俺はあきらに飛びついた。

「ちょ!やめてくださいよ!俺はのびたじゃない!」

正しいツッコミを入れながらも、相変わらず照れて顔を赤くしている。

かわいいやつめ。違う扉が、、いや、それは絶対にないな。