トレドミレジア王国初代の王アウグストゥスは、その類い稀なる魔法の才能を遺憾なく発揮し、瞬く間に数々の国を平定したという。

邪魔さえ入らなければアウグストゥスがこの世界を統一していたであろうことは、現在の王国の規模からも想像に難くない。それほどまでにアウグストゥスの力は偉大だった。

それ以降アウグストゥスを超えた力を持つ者は現れず、後継ぎのいない彼に代わって王国を治めたのは、現王の祖先であるアンドレアス・ランベルティーニであった。

力で他をねじ伏せたアウグストゥスが選んだ後継者は、ただひたすら平和であることを重んじる人間だったのだ。

結果、後世に渡って王国の領土が拡大されることはなく、ランベルティーニの意志は現在まで脈々と受け継がれている。

では、アウグストゥスの意志はどこへいったのか。アウグストゥスはこの世界を統一すべく戦っていたのではないのか。

ならば私がアウグストゥスの意思を受け継ごう。そう決意したのは私がまだ13歳の時だった。

まずは優しさを理念に掲げる温いランベルティーニに終止符を打つ必要があった。しかし、千年以上もの歴史を持つ王家の守りは盤石で、そう易々と崩せるものではないだろう。

私は魔力を持っていなかったが、幸いにも公爵家嫡男であったため、努力せずとも権力だけは持ち合わせており、力を蓄えながら機が熟すのを待った。

その後、王国内で確固たる地位を築き上げ、娘を王妃に据え、王太子となる孫が産まれ、全ては順調に進んでいた。

残念なことに王太子はランベルティーニらしい気弱な質であったが、幼い頃から手懐けておけば操ることは容易く、かえって都合が良いとさえ思えた。

何かと目障りだった第二王子が聖女の捜索で城を空けた4年の間に、できる限り勢力を拡大させたが、あともう一歩というところで王子が戻り、すぐに巻き返しをはかられてしまった。

そしてベルナデッドが王子を襲撃して幽閉されてからは、まるで坂道を転がり落ちるかのような有り様だった。

人生の大半を世界統一のために費やしたというのに、もはやここまでかと諦めかけた時、聖女の対となる者の存在を知った。

発見された聖女は、それこそアウグストゥスを彷彿とさせるほどの魔力を持つという。その対となる者も同じである可能性は高いだろう。

全てが腑に落ちた。

おそらく、アウグストゥスは聖女の対となる転生者だったのだ。

そして今、このタイミングで、アウグストゥスと同じ聖女の対となる転生者が現れたのは、運命としか言いようがない。

その転生者さえ手中に収めれば、世界統一が夢ではなくなるのだ。