元の世界でも常にどこかで戦争は起こってたけど、平和な日本で戦争はあくまで歴史の一部であり、非日常だった。

でも今、私の目の前で、人間と人間が命を懸けて戦っている。

私にとっての戦争は本やテレビの中での出来事で、現実のものではなかったんだと実感した。

外科医だった私は血に耐性があるはずなのに、あまりにもむごい光景に吐き気がする。医師の私が必死で救おうとしていた命と、今目の前で消えていこうとしている命に、何か違いがあるというのか。

この行為を正当化できる理由なんて、果たして存在するのか。

意味がわからない。

理解ができない。

彼らは今、どんな思いで剣を振るっているのだろう。

「聖女、大丈夫ですか?」

顔色を悪くしている私を心配したジョニデが声をかけてきた。考えても仕方がない、今やれることをやらなくては。

「大丈夫、始めようか」

戦場となっている範囲に結界を張り、その内部に癒しの魔法を放つ。

敵も味方も関係なく、傷付いた者全てが癒されていく。

突然の出来事に戸惑い、多くの者が動きを止めたが、それはほんの一瞬のことで、またすぐに殺し合いが始まった。

「なんで、、」

「戦場ではやらなければやられてしまうから、、でしょう」

この戦争がなんで始まったのかは知らないが、今実際に戦っている人々の多くはその理由を知らぬまま、ただ死にたくない一心で剣を振るっているというのか。

数回癒しの魔法を放つが、結果は変わらない。これでは、私が彼らに無限の苦しみを与えていることになってしまう。

「ジョニデ、どうしてレグブルモアは狙われていたの?」

「、、数年前から王国のある貴族が反乱を狙っているとの情報がありました。レグブルモアを落とせば王国軍と渡り合うための兵力を手に入れられると踏んで、侵略の機会を伺っていたものと思われます」

「あーなるほど。その貴族が独立してクラピソンを襲撃したってこと?」

「はい」

「今ここにいるのは確か別の国だよね?サザランド、、だっけ?この人達とその貴族の関係はどんなもんなのか知ってる?」

「サザランド共和国は小さい国なので、その貴族、ラグランジュ大公爵の傘下に入った感じでしょうか」

ラグランジュ、、そいつが諸悪の根源か。

「そのラグランジュ?の目的はなんなの?王国の転覆?乗っ取り?」

「乗っ取りという意味ではほぼ完了していたと言っていいほどの権力を手に入れていたようなので、目的がどこにあるのかはわかりません」

「ふーん」

まあなんとなく想像はできるな。権力に取り憑かれてバケモノになってしまったのだろう。でなければこの世界で戦争なんて起こそうと思わないはずだもの。

「ジョニデ、移動しようか」

「え?聖女、、まさか、、」

「うん、ラグランジュをぶっ潰しに行こう」