父から公国への手紙を受け取る。

「これで戦争を回避できればいいのですが。とにかく父上は身の安全を優先して下さい。父上に何かあれば、それすらも火種になりえますので」

「ああ、わかっておる」

頷く父に、残りの毒消しを手渡した。

「先程の毒消しと同じ物です。効果はひと月程持続するので、切れる前にまたお飲み下さい」

「ひと月!?それは凄いな。本当に聖女が作ったのか?」

「はい、旅の間執拗に命を狙われていましたので。食事くらい落ち着いて食べたいと、聖女が予防策として作ってくれました。実は、聖女が王国に来るのを渋っているのはそのせいなのです。王国から命を狙われ続けている状況では、正直説得のしようがありませんでした」

「王国が聖女の命を狙っているだと?それは確かなのか?」

「王妃はさらうつもりだったようですが、徐々に手段を選ばなくなっていましたし、刺客に関しては、明確な殺意を持つ者は生け捕りが難しく出所は不明。とはいえ、ほぼ王国の者で間違いないと思われます」

「王妃が、、まさかそこまで愚かなことをするとは思わなかった」

「私が王妃と話し合えればと思い先に帰国しましたが、今の様子ではそれも難しいでしょう」

「あれは昔から気の強い女ではあったが、最近では正気を保てているかも怪しい。議会での暴言も許されるものではない。止めることすらままならず、本当に申し訳ない」

「いえ、議会に出席して頂いただけで十分です。あの場に父上がいなければ、私はとっくに城から追い出されていました」

「ああ、それだけは阻止せねばと、その一心であった、、」

「あれはあれで良かったのかもしれません。王から叱責されれば、火に油を注ぐようなものだったでしょう」

場の空気を変えようと軽口を叩いたが、どうやらそれには失敗したようだ。

「レオンティウス、お前がいてくれて本当に良かった。お前が王太子であればどれだけ、、」

「父上!滅多なことは言わないで下さい。私は王の器ではありません」

「何を言うか。お前以上に王に相応しい者は、、」

「私は!王籍から抜けることを考えていました。責任から逃れようとしていたんです」

「レオンティウス!それはならん!絶対に許さんぞ!」

「わかっております。今の王国を見捨てて逃げるようなことは、さすがにできません。ただ、私がいることで混乱を招くなら、いっそ臣下に下る方がいいと考えていたのは事実です。私には、この国と運命を共にする覚悟はなかった。そんな者に王が務まるとお思いですか?」

父が押し黙る。いずれにせよ、今は優先すべきことが他にあるのだ。