教皇のことはひとまずどうでもいい。

兄と他愛もない話をしながら、ラグランジュ公のことに思考を巡らせる。

ラグランジュ公は、既に王国の3分の1程の勢力を有している。それに密談を交わしている三国を加え、掌握まではせずとも、王国軍と神殿内に揺さぶりをかけ機能を低下させることができれば、数の上での劣勢を覆せるかもしれない。

いや、、まだ足りないか。

軍の掌握が難しいとなれば、簡単には王国を落とせず、消耗は激しくなるだろう。そうなると、他国にその隙を突かれる可能性も考えなくてはいけなくなり、難易度はより上がる。

もしラグランジュ公が本気で反乱を起こすつもりなら、確実に王国を潰すために、もうひと押しするはずだ。

俺がラグランジュ公なら、、今聖女達が滞在しているレグブルモア公国を手中に収め、外から勢力の拡大をはかる。

ラグランジュ公、もしくは北の三国が公国と接触しているのは確認されていない。となれば、どういう形であれ、攻め落とす方法をとるしかないだろう。だが、軍を動かし戦争を始めるには大義名分がいる。

ラグランジュ公は今、種を撒き、勢力を拡大させながら、機が熟すのを待っているのかもしれない。その種を確認できれば、その間こちらも準備に集中できるのだが、、

いや待てよ?父に何かあれば、兄が王になるのだ。そうなれば、わざわざ戦争など起こさずとも、ラグランジュ公は王国を手に入れたも同然ではないか?

ラグランジュ公の目的はなんだ?なんのために動いているんだ?

「聖女と世界中を回ったそうだが、何かおもしろい話はないのかい?」

思考が行き詰まった所で、兄に話を振られた。

「貴重な経験をさせて頂きましたが、教会を回るばかりで観光などはあまりしてませんし、、強いて言うなら、食事は楽しめましたね」

「そうか。そう言えば子供の頃に避暑地で食べた魚介のスープは美味しかった。またいつか食べたいな」

こうして話していると、さっき脅しをかけてきたのが嘘のように、元の兄のままだと感じる。

「聖女はどんな方だった?3年も一緒にいたのだから、親しくしていたのだろう?」

「聖女は、、」

思いがけない兄の問いかけに、言葉を詰まらせる。

聖女については話せないことが多いのもあるが、何より、聖女に会いたいと思う気持ちで、胸にこみ上げてくるものがあった。

一呼吸置き、気を取り直して話を続ける。

「聖女は、一言では言い表せない方ですね」