6月。うだるように暑かった。
 その日も晴れていた。朝。橋本ここなは、いつものように野いちご学園高等部に登校していた。白いワンピースのセーラー服を着ていた。半袖だ。青いハイカット丈靴下。茶色のローファーをはいていた。ショルダーバッグを肩にかけていた。汗をかいていた。小麦色の肌が美しく光っていた。青春の香りがした。
 無数の生徒たちが登校していた。皆夏服である。
 「あ、ここなんだ」
 「ここなんだ」
 と、男子たちが噂する。
 「悪魔」
 「悪魔だ」
 「悪魔が歩いてる」
 と、噂が聞こえた。
 「悪魔?」
 と、ここな。
 野いちご学園高等部を掘られた門を通った。前の方にチセがいた。
 「橋本さん、おはよう」
 と、高瀬帳が後ろから来た。
 「あ、高瀬君、おはよう」
 と、ここな。
 「あ、高瀬君だ」
 「高瀬君だ」
 「高瀬君、橋本さんに挨拶してるう」
 女子たちが噂した。
 「悪魔」
 「あんなか、悪魔入ってる」
 「悪魔がおきてきたぞ」
 「悪魔が出てきた」
 チセに対するやじがとんでいた。高瀬君はうなずいた。ここなを見た。そうしてチセを見た。
 「黒田さあん」
 と、高瀬君。
 チセが振り向いた。
 「え、高瀬君が」
 「悪魔を呼んだ」
 「どういうこと!!!!!」
 「黒田さあん」
 高瀬君はチセへ駆け寄った。
 ここなは、スマホを取り出した。
 「お、悪魔だ」
 と、高杉シン。
 「おはよう、シン」
 と、シンの男子の友達。
 「ねえ、黒田さんてえ、悪魔なの?」
 と、高瀬君は聞いた。
 ここなは、スマホで二人を撮った。
 「え」
 と、チセ。きょとん、とした。
 「ねえ、黒田さんてえ、悪魔族なのお」
 と、高瀬君。
 「ああ、高瀬君にも悪魔っていわれてるう」
 と、女子。くすくす笑った。
 「なんだ、あれ」
 と、シンのもう一人の友達。
 「角はあるのお」
 と、高瀬君。
 女子たちが失笑している。
 チセは唖然としていた。
 「かっこいいなあ。悪魔かあ。僕もなりたいなあ」
 と、高瀬君。
 「ああ、またはじまったあ、高瀬君の中二病!」
 と、女子。
 「いつもの高瀬の天然だ」
 と、シン。
 「ねえ、黒田さん、もしよかったら、僕と握手してくれない?」
 と、高瀬君。
 「ええ、高瀬君が、悪魔と握手ううううう」
 と、女子。
 「ええええええええええええ」
 女子たちがざわめいた。
 シンが、二人をじっと見守った。
 「え」
 と、チセ。
 「ねえ、僕と握手してくれないかなあ?」
 と、高瀬君。
 チセはきょとんとした。
 「だめなのお」
 と、高瀬君。
 「ああ、いいよ」
 と、チセ。
 「やったあ」
 と、高瀬君。高瀬君は右手を出した。チセは右手を差し出した。高瀬君が手を優しく握った。なんかあたたかかった。
 「えええええええええ」
 女子たちがざわめいた。
 「なんでえ」
 「なんで、高瀬君がよりにもよって、悪魔とお」
 と、女子たちが口々にいった。
 高瀬君が手を放した。
 「よおし、これであれができるぞおおおおおお」
 と、高瀬君。
 ここなは、動画を撮るのをやめ、スマホをしまった。そうして、校舎へと向かった。