「あ、橋本さんが黒田さんに近づいてるう」
 と、女子。
 「え、ここなんが」
 と、男子。
 「さっすが、ここなん、優しい」
 と、男子。
 「ええ、学園のアイドルが上から目線で慈悲ってかあ」
 と、女子。
 「性格ワルといるう」
 「根暗といるう」
 「性格悪い奴といる」
 ここなは握りこぶしをぎゅっとした。高瀬帳(たかせとばり)がそちらをみやった。
 「黒田さん」
 と、ここなは笑顔でいった。
 チセがここなを見た。
 「橋本さん」
 チセはか細い声でいった。
 「ああ、黒田さんがなんかいったあ」
 と、女子。
 「美少年がっ!」
 と、男子。
 「声おかしいよねえ」
 「うーん」
 「ぶつぶつ独り言言ってる」
 高瀬帳が見た。
 「何読んでるの?」
 と、ここなは、きいた。
 「これ?」
 チセはぼそっといって表紙を見せた。
 「黒魔術の本」
 と、ここなはタイトルを読んだ。
 「えええ、黒魔術の本?」
 と、女子。
 「うわあ、やっぱり不気味だよお」
 と、男子。
 「ひくわあ」
 と、男子。
 「鳥肌立った」
 「そういうのかっこ悪い」
 と、女子。
 「漫画でも読んでろよな」
 「男の黒魔術」
 「女の黒魔術」
 陰口が飛んだ。
 高瀬帳は、見た。
 「へえ、こういうの、好きなんだ」
 と、ここなは苦笑いしていった。
 「うん。私、小さいころからいろいろ見えるから」
 と、チセはぼそっといった。
 「い、いろいろ見えるって?」
 ここなは、苦笑いしてきいた。
 「幽霊とか妖精とかいろいろ」
 と、チセ。
 「えええええええ、まじ。ありえなあい」
 と、女子。
 「気持ち悪いんですけど」
 と、男子。
 「ぞーとするわ」
 「恐い人だ」
 高瀬帳は見た。
 「ああ、そうなんだ。いいね。夢があって」
 と、ここな。ここなは苦笑いしている。
 「うん」
 と、チセはぼそっといった。
 「うわあ、黒田さん、まじやばくね」
 と、男子。
 「男の幽霊がみえるの?女の幽霊?」
 と、女子。
 「性格ワルが」
 「性格悪いよねえ」
 「最悪」
 「最低」
 「黒魔術で悪魔でもおびきよせてんじゃねえ」
 「えええええええええ、悪魔ああああああ」
 「黒田さんぽいよねえ」
 「こわあい」
 「ぞーっとするわあ」
 「かんべんしてよお」
 「なんか感じ悪いよねえ」
 「恐い人だあ」
 「鳥肌立った」
 「ここまで出かかってる」
 ここなはそれらのやじをきいていた。それは罵詈讒謗(ばりざんぼう)の嵐であった。
 ここなは目をつむった。

 「はあい、皆さん注目う!!!!!!!」
 突然、ここなは、クラスのみんなに大きく元気にいった。クラスのみんながここなに注目した。高瀬帳も見た。
 「黒田さんのお、呼び方が、決定しましたあ」
 と、ここなはかわいく元気にいった。
 「ええええええええええええ」
 と、クラスメイト達。
 「黒田さんの呼び方はあ、「悪魔」にい、決定え」
 と、ここな。
 シーンとなった。
 「ここな・・・・・・」
 と、飛鳥(あすか)がつぶやいた。
 「あくま、あくま、あくま」
 黒髪ショートヘア、黒い瞳、鼻筋の通った目が大きく吊り上がった高杉シンが手拍子した。すると、シンの仲間の男子たちも手をたたきはやし始めた。
 「あくま、あくま、あくま」
 すると、それを合図にクラス中がはやし始めた。
 「あくま、あくま、あくま」
 高瀬帳はクラスにのらず、黙って、チセを見た。飛鳥もチセを見た。