黒田チセは、野いちご学園高等部に入学した。黒髪のショートヘア。前髪を垂らしていた。痩せていた。クラスでは浮いていた。誰とも話さなかった。いつも独りだった。ここなは、チセが気になっていた。
 やがて、クラスメイトのいじめが始まった。
 「黒田さんって性格悪いよね」
 「いつも独りだよね」
 「ねえ、黒田さんて、ウルフちゃん(女子中高生に人気の小説投稿サイト)やってるらしいよ」
 「性格悪い奴がするもんじゃないよねえ」
 「黒田さん髪の毛わけてるよねえ」
 「黒田さんって先生みたいだよねえ」
 チセはいつもやじられていた。
 やじはエスカレートしていった。チセはいつも監視されていた。
 教室にチセが来る。チセは白いブラウスにグリフィンのエンブレムのついたブレザーを着ていた。胸にリボン。チェックのスカート。黒いタイツをはいていた。
 「あ、黒田さんだ」
 と、女子。
 「黒田さんだ」
 と、皆がやじる。ここなは、黒田さんを傍観した。チセは自分の席につく。
 「あ、黒田さんが席についた」
 と、女子。
 「不気味だよねえ」
 「性格わるが」
 「先生みたい」
 女子が失笑した。
 それからもチセへのやじは続く。
 「黒田さん先生みたいだよねえ」
 「男の先生」
 「女の先生」
 「ヤンキーだよねえ」
 「ほんと」
 「性格最悪だよねえ」
 「ねえ」
 ここなは、黙ってそれらのやじをきいていた。
 「黒田さん、ウルフちゃんやってるんだよねえ」
 「なんでも書くんだよねえ」
 「あんなヤンキーが信じられないよねえ」
 「あんな美少年がねえ」
 「なんで書くんだろう」
 「かっこいいやつが書くなよ」
 やじはわけがわからなかった。それでもやじは続く。何これ、いじめ、いやがらせ、おかしくない?ここなは思った。