6月下旬

私、有川 真理(ありかわ まり)は返ってきた模試の結果を見て絶句していた。

別に自信があったわけではない。
志望校も、ただ偏差値が高いからと親に進められるまま書いたもので、心の底から行きたかったわけでもない。

なのに、D判定という文字を見ると、悔しさと焦りが混じったような気持ちが込み上げてきて、思わずため息をついてしまった。
それなりに勉強を頑張ってきた“つもり”ではあったからだ。

「このままじゃ志望校に合格できないぞ」

模試が返されたその日に行われた2者面談で担任に言われたこの一言。
ただでさえ気が滅入っていた私の傷口を抉るには充分だった。

「まあ有川は定期考査の点数はそこそこいいし、ちゃんと勉強すればB判定くらいはすぐに貰えると思うぞ。気を抜かず、しっかりやれよ」

「はい、、、」

「文系だからって、化学の点数がこんなに悪くちゃなかなか偏差値も上がらないぞ。他の教科、特に国語なんてこんなにできてるんだから」

模試の結果票を指差して頑張りを促してくる担任教師を見ながら、私は母への言い訳を考えていた。

ガチャッ

「ただいま、、」

「あら?真理、おかえり、今日は早いのね」

「うん、、」

「元気がないけどどうしたの?」

「なんか、模試の結果が思ってたより悪くて」

私は通学カバンから模試の結果票を出し、母に渡した。

「D判定じゃない。前もだったわよね?真理はやればできる子なんだから、ちゃんと気合い入れてやらないと勿体ないわよ。」

「、、、うん。ごめん、次は頑張るね」

“ちゃんと勉強したら”、“やればできる子”
期待されるのは嬉しいことのはずなのに、今の私にとってはただの重荷にしか感じられず、こんな自分を応援してくれている母や先生に申し訳ない気持ちになる。

情けない気持ちでいっぱいになり、私は母から模試の結果を返してもらったあと少し早足で塾へと向かった。

(そういえば、次から新しい先生に変わるって言われてたんだっけ、、。今日からじゃん)

塾の入口で、ふとそんなことを思い出した。

私は完全個別指導の塾に通っている。そして今日は新しい先生との顔合わせと面談の日だ。

(どうせまた同じようなこと言われるんだろうな、、、)

面談で言われたことと先程母に言われたことを思い返しながらため息をついた。
最近、ため息をつくのが癖になってしまっている。