王宮で開かれた婚姻の儀には第一王子の婚姻ともあり、大勢の王族関係者や上流貴族たちが来ていた。
 普段よりも着飾ったドレスを着たヴィオラは、扉がゆっくりと開くと同時に一歩一歩祭壇のほうへと歩みを進めていく。
 ちらりと視線を移すと、彼女の母親のしたり顔と、新しい父親の弱々しく妻の尻に敷かれているであろう表情が見えた。

 ベールに包まれて少し俯きがちに歩いていくと、その先にはリーベルトが祭壇前に笑顔で彼女を待っていた。

「ヴィオラ」
「リーベルト様」

 殿下から名前呼びになり、より夫婦になるのだという実感がわいてくる。
 ああ、これから大好きな彼の元に嫁ぎ、そして彼を支えていく。
 そうして一緒に傍にいることができるのだと──

「それでは、こちらの聖水を」

 そういって神父から差し出された誓いの聖水の杯を二人で共に受け取る。
 この聖水は昔、この地にいた女神がもたらした雫と言われ、王族の婚姻の際には必ずこの聖水を飲んで誓いを立てるという儀式がおこなわれる。