「はぁ……そうじゃなくて」と、やや呆れ気味に言うめぐみさん。

めぐみさんの気持ちは、手に取るようにわかる。
だって、私自身もまだ不安を拭いきれていないから。

当事者の私ですら未だに疑心暗鬼なこの結婚。第三者なら、なおさらだろう。


「うーん……もう、引き返せないんだよね?」

「うん。お父様にも、会いに行くから……」

「わかった。とりあえず、店長やみんなには政略結婚かもしれないってことは黙っておきな? ややこしいことになったら、莉乃の立場がなくなる」

「めぐみさん……ありがとう」


震える声でお礼を伝えた私のことを、ぎゅっと抱きしめてくれためぐみさん。
話が終わったと同時にほかの子たちが出勤し始め、ロッカールームは一気に賑やかになった。

とりあえず。私は兼ねてからお付き合いしていた一般企業の男性と結婚することになったこと。
辞めるまで、ほかの子たちには結婚のことを言わないこと。

これを約束し、店長に結婚のことを伝えた。
店長はめぐみさん以上に驚いていたけれど「おめでとう」と言って祝福してくれる。


改めて周りの人の優しさに触れた気がして、少しだけ涙腺が緩んだ。

退職するまで、一生懸命働こう。
そして常連客にも感謝の思いを込めながら、接客をしていこうと思った。