サグサの案で、明日から教会に礼拝に行くことを勧められたレティシア。セシリアスタが仕事から帰ってきたら話してみようと思っていると、セシリアスタが帰ってきた。
「おかえりなさい、セシル様」
「ただいま。今日は何か変わったことはあったか?」
 肩を抱かれながら、食堂に向かう。席に着き、今日のしたことを振り返る。そういえば。
「お茶会の招待状が届きました」
「招待状?」
 レティシアの言葉に、セシリアスタの表情が強張る。それに気付かず、レティシアは言葉を続けた。
「どなたかはわからなかったのですが……D・Oとだけ書かれておりました」
 レティシアの言葉を聞き、セシリアスタは手で目元を押さえ溜息を吐く。セシリアスタの珍しい態度に、レティシアは首を傾げた。
「あちゃ~……先越されちゃいましたか」
 セシリアスタの背後にいるエドワースが苦笑している。知り合いなのだろうか――。
「レティシア、それは何時となっていた?」
「五日後です。迎えに行くとも書かれてありました」
 正直に言うレティシアの言葉を聞くと、セシリアスタは背後に居るエドワースに小声で何かを話し出す。エドワースは頷くと、静かに食堂を出て行った。
「あの、何か不都合でもあったでしょうか……?」
「いや、何もない。その日は私も同伴する」
「え!」
 セシリアスタの突然の発言に、レティシアは驚く。お茶会にセシリアスタも同伴しても大丈夫なのだろうか? 疑問に思うレティシアに、セシリアスタは微笑んだ。
「知人だから大丈夫だ。向こうも私が来ることを見越して招待状を送ってきている」
「そうなのですね」
 良かったとホッと安堵するレティシアに、セシリアスタは変わらず微笑んでいた。


 五日後。その日がやってきた。レティシアは淡いピンク色のエンパイア・ドレスに同色の大きなリボンの付いたファシネーターを被っている。首元にはセシリアスタから貰ったペンダントを下げ、髪飾りも同様にセシリアスタの魔石で出来た髪飾りだ。今はセシリアスタと共に、迎えを待っている最中だった。セシリアスタは普段のロングコートではなく、紺のスリーピース・スーツだ。普段とは違ったセシリアスタに、レティシアは見とれてしまい仄かに頬が紅潮しているのが自分でもわかった。
「……来たな」
 セシリアスタの声に我に返ったレティシアは、セシリアスタに続き目の前に停まった豪華な馬車に乗り込んだ。
「セシル様は行先をご存じなのですよね」
「ああ。全く、彼女には困ったものだよ……」
 彼女、ということは、やはり差出人は女性のようだ。どのような方なのだろうか――?
「気になるか?」
 やれやれと肩を落としながら聞いてくるセシリアスタに、レティシアは小さく頷いた。
「会えばわかる……と言いたいところだが、先に話しておこう。向かう先はオズワルト伯爵邸だ。ここ王都オズワルトを王宮と共に管轄している名家だ」
「オズワルト伯爵!? そんな方が、何故私に招待状を……?」
 疑問に思うレティシアに、セシリアスタは小さく溜息を吐く。
「……大方、私の婚約者を見たいというだけだろう」
「セシル様?」
 どうなさったのでしょう。元気がないように見えます――。そう思うレティシアを余所に、馬車は目的地へと辿り着いた。

 ユグドラス邸も大きな庭園があるが、オズワルト伯爵邸は門を通り抜けた先の庭も大きかった。赤に統一された薔薇の花に出迎えられながら、馬車がゆっくりと玄関前へと停められる。セシリアスタに手を差し伸べられキャリッジから降りると、壮大な建物に呆気に取られる。白い壁に赤で統一された屋根、柱の一つ一つに彫られた植物の蔦。凄いの一言だ。
 呆気に取られていると、セシリアスタに肩を抱かれた。慌てて、玄関へと歩き出す。扉が開かれ、エントランスに足を踏み入れる。そこには、複数の使用人と美しい灰色の髪の美丈夫と金髪の美女が立っていた。
「いらっしゃい。よく来たね、セシル」
「お久しぶりです。兄上」
 セシリアスタの一言に、レティシアは目を見開く。今、確かに兄と言っていた。
「久しぶりね、その子が婚約者さん? 可愛い子ね」
「義姉上、急に招待状を送られるのは困ります……」
「あら、急ではないわよ。エドワース君から手紙は頂いていたもの」
 その一言に、セシリアスタは溜息を吐く。この綺麗な御方が、招待状をくださった御方なのね――。
 レティシアはスカートの端を摘まみ、深くお辞儀をした。
「はじめまして。レティシア・クォークです。この度はお招きいただき、感謝いたします」
「まあっ、声も可愛らしいわ! 私はディアナ。こっちは夫のディシアド。よろしくね。未来の妹さんっ」
 金髪藍色の目の女性、ディアナは笑顔でレティシアを出迎えた。隣にいる灰色の髪に水色の目のディシアドも、レティシアに手を差し伸べた。
「はじめまして、レティシア嬢。弟の婚約者がどんな人か見たくてね。ついお茶会に呼んでしまったのだよ」
 手を取られ、手の甲にキスを落とされる。セシリアスタに似たディシアドは穏やかそうな人だった。

「さあこっち、お茶会の舞台へ行きましょう」
 ディアナの声に導かれるまま、レティシアはセシリアスタと共に屋敷内を歩きだした。