「ふざけないで!!」
 ガシャン、とランプが床に叩きつけられた。床にはそれ以上に沢山の物が散らばっている。破かれたドレス、ヒビの入った時計、割れたティーポット……数々の壊された物が床一面に広がっていた。
「スフィア、落ち着きなさいっ」
 母ユノアの言葉も空しく、スフィアはカップに紅茶の注がれたティーカップを腕を振るい床に投げつけた。
「なんでっ、なんで私じゃなくて、あの『不良品』が選ばれるのよ!」
「スフィアッ」
 怒りに肩を震わせながら、スフィアは叫ぶ。何故、魔導公爵はあの『不良品』を選んだのか。ユノアは落ち着くように何度も声をかけるが、ユノアの声は怒り心頭のスフィアには届かない。
 魔力を放出しているせいか、金の髪がうねり上がる。緑と茶色の炎を背後に纏い、レティシアへの嫉妬に表情が歪んでいく。
「落ち着きなさい、スフィア!」
「うるさいっ!」
 声を荒げ、ユノアを睨みつける。なんで、なんでなんでなんでなんで!! スフィアは唇を噛み締め、眉間に皺を寄せ怒りに顔を歪ませる。噛み締めた唇からはじわりと血が滲んでいく。荒い呼吸が、スフィアの怒りの度合いを表す。
「許さない……」
 声を荒げていたスフィアが、ぽつりと呟く。拳をつくり、硬く、硬く握り締める。
「あの『不良品』だけは、絶対に許さない……!」
 荒れ果てた部屋に、スフィアの憎しみの籠った声が響いた。
 絶対に、レティシアに復讐してやる。それだけが、スフィアの頭の中を占めた。