〇苺ノ花学園高等部3年A組の教室(昼休み)
友人の鳥井香羅(とりいから)と昼食を食べている羽咲。
今日のお昼は購買で買ったおにぎりとサラダにいちごミルク。
羽咲「ぇ、バイト辞めたの?」
香羅「そう。合コンに誘ってくれた先輩はあの暴走族の人たちとは直接関係ないみたいだけど、なんか怖くなっちゃって」
羽咲「そっか……」
香羅「でもちょうど暴走族同士の小競り合いがあって本当に助かったよねぇ。草野先生だけじゃ殴られて終わりだっただろうし」
羽咲「そ、だね」
——先週合コンの後で絡まれた時、香羅は偶然その場に暴走族の上位チームが居合わせたと思っている。
だけど本当は違う。実は暴走族のトップ龍鬼雷伝の元総長だったと草野先生本人から聞いた。
香羅「バイトはしばらくいいや、って感じ。受験の事もそろそろ考えないとだし」
羽咲「受験かぁ……」
羽咲(大学行くにもお金がかかるし、将来どうしよう……)
羽咲は小さくため息をついた。
〇下校途中
先日生徒会長の井貫波和を助けた路地の近くの通りにある店の前に貼られた求人募集に視線が釘付けになっている羽咲。
羽咲(このお店、時給がすごく高い……)
すると突然、うしろから声をかけられた。
声をかけてきたのは、華やかな服装と完璧なヘアメイクの美しい女性。
アリサ「可愛らしい子ね、お仕事希望?」
羽咲「ぁ、はい、その……」
アリサ「うちのお店18歳以上じゃないとダメだけど」
羽咲「私、18歳です」
アリサ「でも高校生よねぇ。親御さんは何て?」
羽咲「両親は、いないんです……」
その言葉に、アリサの表情が羽咲を慈しむようなものへと変わった。
アリサ「私と一緒ね。この店はお客様も良い方ばかりだし、一度体験してみる?」
羽咲「ぇ、でも……」
アリサ「私の隣に座っていれば大丈夫よ。さ、行きましょ」
アリサに背中を押され、羽咲は裏口の方から店の中へと入っていく。
〇キャバクラの店内、控え室
アリサに化粧をされて、背中の開いた華やかなドレスを着ている羽咲。
控え室をチラリと見た金髪の昇矢が、羽咲の存在に気付いた。
昇矢(おいおいマジかよ……。この事ケイは知ってんのか?)
アリサ「うさぎちゃん、かわいー」
しばらくして店が開店の時間を迎えた。
黒服「アリサさん、ご指名です」
アリサ「はーい。行こ、うさぎちゃん」
羽咲「は、はい……」
アリサに腕を組まれた羽咲が控え室を出ると、グッとうしろから肩を掴まれた。
驚いた羽咲がうしろを振り返ると、前髪をオールバックにしてサングラスをかけた敬多の姿が。
羽咲(ぅぁ、草野先生……)
羽咲の額から冷や汗が流れていく。
敬多「これはどういう事だ、アリサ?」
アリサ「ぇーどういう事って?」
敬多「なんでこのガキがこんな店でこんな格好してるんだって事だよ」
アリサはキョトンとした顔で敬多と羽咲の顔を交互に見た。
アリサ「もしかしてうさぎちゃん、ケイと知り合い?」
羽咲(高校の担任だって言ってもいいものか……)
羽咲「あの、家が、近所なんです」
アリサ「えー、そうなの? ケイの家、行ってみたーい」
敬多「ダメだ」
アリサ「えー、ケチー」
アリサが、ぷ、と可愛らしく頬を膨らませている。
敬多「とにかくこいつは連れて帰る」
アリサ「せっかく可愛くしたのにぃ」
敬多「ガキのくせにこんな格好しやがって。家に帰ったらお仕置きだな」
ぶに、と敬多に頬をつままれた羽咲。
羽咲(ひぇえ、お仕置きって、何されるの!?)