川嶋伊三郎と言えば県議会議員である。 なんでも不動産業に知り合いが多いらしくてあれやこれやと便宜を図ってやっているらしい。
その弟は飲み屋街のドンと呼ばれている男でバーテンダー協会でさえ頭が上がらないという。
この二人、それだけならいいのだが薬の世界でも有名な男である。 いつだったか薬を取り仕切ろうとした高城組の若頭が不審な死に方をしたことが有る。
闇の世界ではこの二人がやったのだろうと専らの噂であるらしい。 その伊三郎が刺されたのだ。
「この辺りは高城組と松永組が争ってるんだ。 何も無ければいいがね。」 親父さんは曇った顔で水を飲みほした。
「さっき、川嶋の弟が来なかったか?」 スーツ姿の厳つい男が飛び込んできた。
「少し前に来たよ。」 「何処に行ったか知らないか?」
「さあねえ。 何も言ってなかったから知らないよ。」 「そうか。 どの方向に行ったか分かればいいんだが、、、。」
「当てにはならんがあっちの方じゃないか?」 親父さんはロータリーの向こう側、パン屋の辺りを指差した。
「おおきに。 行ってみるわ。」 どうやら男は関西出身らしい。
芳太郎はまたまた皮を齧りながら日本酒を飲み始めた。 今夜は落ち着かないらしい。
伊三郎が刺されたとなれば捜査一課は慌ただしく動くことになる。 しかも相手は伊三郎。
上の人間とも繋がってる議員だから何処まで踏み込めるか、、、。
「こうもあっちでこっちで騒がれたんじゃ堪ったもんじゃないなあ。」 親父さんは顔を拭きながら遠くを見た。
「トラックだ。」 「何だって?」
「松永組のトラックだ。 何かやる気だぞ。」 芳太郎もその声に後ろを振り向いた。
ロータリーはラッシュも過ぎかけて静まり返っている。 そこへトラックが飛び込んできたのだ。
危うく数人の男が巻き込まれそうになってトラックも止まった。 そして、、、。
「早く消えやがれ!」という怒声が聞こえてきた。 「あの声は、、、。」
そう、伊三郎の弟、孝弘である。 男たちの姿が消えるとやつはトラックをロータリーの真ん中に据え置いた。
「ここで何をする気なんだろう?」 「まあまあ、管轄の刑事さんたちに任せときなさいよ。 飲んでるんだから。」
「親父さん、肝と何か適当に焼いてくれるか?」 そこに見たことの無い男が入ってきた。
「味は任せてもらうけどいいかい?」 「いいよ。 早く頼む。」
サングラスをしているから特徴は分からないが、見たことが無いことだけははっきりしている。 芳太郎は何気に皮を齧っている。
ロータリーの方ではトラックがエンジンを吹かしたり止めたりしている。 イライラしているようだ。
ラジオのニュースが聞こえた。 「伊三郎氏ですが、、、懸命な治療が続けられています。 予断は許さないようですが、、、。」
その時、けたたましいパトカーのサイレンが聞こえた。 (何だろう?)と思って見てみると、、、。
ロータリーの前を爆走する車が居る。 どうやらそいつを追い掛けてきたらしい。
「今夜はあれやこれやと賑やかなもんだな。 焼けたよ。」 サングラスの男に親父さんは無表情で焼けた物を差し出す。
男はそれをぶっきらぼうに齧りながらトラックを見ている。 その表情が何とも言えない。
親父さんは新しい肝を焼き台に載せた。 「いい匂いだねえ。」
「そうかい?」 「この少し焦げたような匂いが好きなんだよ 俺は。」
男は初めて笑った。 芳太郎はその時に(おや?)っと思った。
実はその男、二代くらい前の県警本部長だったのだ。 彼、高橋正幸は真正直な人間で芳太郎のことも可愛がってくれていた。
退職後、しばらくは公安委員会で事務仕事をしていたのだが、2年ほど前に辞めてしまって以来、どうしているのか分からなかった。
「もしかして高橋さんでは?」 芳太郎はおずおずと聞いてみた。
「おー、芳太郎君じゃないか。 ここで飲んでたのか?」 彼は耳打ちするように答えた。
「どうしたんです?」 「実はね、やばい男が動き出すようなんだよ。」
「やばい男?」 「そうだ。 君も知ってるだろう?」
芳太郎はふと考えた。 危ないやつと言えば数人の顔が浮かんでくる。
そのうちの伊三郎はさっきのニュースの通りだ。 となると?
高橋は金を払うと芳太郎の肩をポンと叩いて闇の中へ消えて行った。
「何も無ければいいんだが、、、。」 親父さんも高橋の後姿を目で追っていた。
やや有ってトラックが爆音を響かせて走り去っていくとロータリーはまた静けさを取り戻したようだ。
芳太郎も金を払ってタクシーを呼んだ。 その中でのこと、、、。
運転手は黙ってラジオを聞いていた。 「速報です。」
アナウンサーの緊迫した声が聞こえる。 「懸命な治療を続けられていた伊三郎氏が亡くなりました。」
「何だって? 死んだ?」 運転手も一瞬動転したようだ。
「ごめんな。 取り乱しちまって、、、。」 「いいよいいよ。 あれだけの大物が殺されたとなったら誰だって穏やかじゃいられないよ。」
「お客さん 分かってるねえ。 もしかして伊三郎の関係者かい?」 「いやいや、そんなもんじゃない。 まったく関係は無いよ。」
「そっか。 伊三郎だったらこの辺じゃあ知らないやつは居ないからなあ。 あはははは。」 運転手は豪快に笑ってみせるのだが、、、。
芳太郎はそんな運転手と別れて家に帰ってきた。 張り込みの後の伊三郎襲撃とあって何だか疲れ切っている。
居間に入ると背広も脱がずにそのまま倒れるように寝てしまった。
その頃、県警は大騒ぎである。 伊三郎が死んだのだから無理も無い。
県下の警察という警察に緊急司令が飛んだのである。 「伊三郎を巡って抗争が起きる危険が有る。 油断しないように。」
そして県警本部に捜査一課長が集められることになった。 真夜中の結集である。
もちろん大谷署でも課長は県警に詣でていた。 「これからが大変だぜ。」
刑事たちも特攻の準備である。 しかし何処で誰が何をしでかすか全く予想が出来ない。
「相手は超一流の反社だからな。 何が起きてもおかしくない。 こちらも臨戦態勢で臨まなければ、、、。」
捜査員たちもさっきから情報収集に余念が無い。 「引継ぎでミスらないようにしないとな、、、。」
川嶋の弟だってどう出てくるか分からない。 優しい顔をしているが竹を割ったような男だから、、、。
翌日は朝から揃いも揃って戦闘モードである。 芳太郎はそんな捜査一課の隅っこで窓の外を見詰めている。
「ではこれから3班に分かれて行動する。 1班は武村義也を中心に張ってくれ。」 「分かった。」
「2班は川嶋の周辺を見張ってくれ。」 「了解。」
「3班はだな、寺本直子がどう動くかを見ていてくれ。」 「分かった。」
寺本直子というのは伊三郎の愛人の一人である。 名家の生まれだけ有って余程のことが無いと警察だって手が出せない。
(厄介なことにならなければいいが、、、。) 芳太郎は出動した捜査員たちを見ながらそう思った。
彼は今日も暖かい窓際で与えられた資料の整理をしている。 ここ数年の検挙者数の動向調査である。
「警部補は留守番をしていてください。 何か連絡が入ったらスマホにお願いしますよ。」 そう言って課長も出陣して行った。
たかが留守番、されど留守番である。 昼を過ぎた頃から情報がいろいろと入ってきた。
「寺本直子が動き出しました。 追跡します。」 「川嶋が水谷商会のビルに入りました。」
「武村は動きません。」 それぞれの報告を聞きながら芳太郎は時系列ごとに記録していく。
「寺本が水谷商会に入りました。」 この報告にはさすがに緊張が走ったらしい。
水谷商会と言えば川嶋伊三郎の叔父の兄が経営している会社である。 そこでいったい何が、、、?
以前、探りを入れて殺された刑事が話していた。 「あそこは銃と銃弾を扱っている。」と。
よくそこまで調べられたものだ。 あそこは警備が厳しいからなかなか入れないのだが、、、。
「女だよ。 女を潜らせて情報を掴んだんだ。」 もちろん、リスクは覚悟の上。
その女だって今はどうしているのか分からない。 韓国に居るような噂は有るのだけれど、、、。
「水谷敬一郎が出てきました。」 午後4時を回った頃だ。
捜査一課も3交代で張り込むらしいから次の捜査班が出ていく頃だ。 「やあ、大森さんじゃないか。」
懐かしい声が芳太郎の背中に聞こえた。 振り返ると銃器対策課の吉竹守である。
「おー、どうしたんだ?」 「川嶋の事件で招集されたんだよ。 こいつはやばいことになりそうだな。」
「そうか。」 「落ち込んでるのか?」
「いや、なんとなく嫌な予感がするんだ。」 「まあまあ、心配するな。 うまくやってやるよ。」
「気になるのは寺本直子なんだよ。 何であいつが、、、。」 「伊三郎の愛人だったから怒り心頭なんだろう? よく有ることだよ。」
「でも相手は、、、。」 「そいつは分からない。 伊三郎を殺したのが誰なのかさっぱり分からないんだ。」
「それが寺本なんじゃないのか?」 「愛人が伊三郎を? 有り得ないよ。」
「分からんぞ。 金や薬が絡めば、、、。」 「まあまあ、その辺も調べが付けば分かるだろうよ。 じゃあ、行くから。」
吉竹が出て行った後、通信係を木村雄介に頼んで芳太郎は課を出た。 珍しく真っ赤な夕日が顔を照らしている。
大谷署の前をけたたましくサイレンを鳴らして警邏隊のパトカーが走り過ぎて行った。 (何だろう?)
不思議には思ったが管轄外だということも有って彼はさっさと駅へ歩いて行った。 実は、、、。
その弟は飲み屋街のドンと呼ばれている男でバーテンダー協会でさえ頭が上がらないという。
この二人、それだけならいいのだが薬の世界でも有名な男である。 いつだったか薬を取り仕切ろうとした高城組の若頭が不審な死に方をしたことが有る。
闇の世界ではこの二人がやったのだろうと専らの噂であるらしい。 その伊三郎が刺されたのだ。
「この辺りは高城組と松永組が争ってるんだ。 何も無ければいいがね。」 親父さんは曇った顔で水を飲みほした。
「さっき、川嶋の弟が来なかったか?」 スーツ姿の厳つい男が飛び込んできた。
「少し前に来たよ。」 「何処に行ったか知らないか?」
「さあねえ。 何も言ってなかったから知らないよ。」 「そうか。 どの方向に行ったか分かればいいんだが、、、。」
「当てにはならんがあっちの方じゃないか?」 親父さんはロータリーの向こう側、パン屋の辺りを指差した。
「おおきに。 行ってみるわ。」 どうやら男は関西出身らしい。
芳太郎はまたまた皮を齧りながら日本酒を飲み始めた。 今夜は落ち着かないらしい。
伊三郎が刺されたとなれば捜査一課は慌ただしく動くことになる。 しかも相手は伊三郎。
上の人間とも繋がってる議員だから何処まで踏み込めるか、、、。
「こうもあっちでこっちで騒がれたんじゃ堪ったもんじゃないなあ。」 親父さんは顔を拭きながら遠くを見た。
「トラックだ。」 「何だって?」
「松永組のトラックだ。 何かやる気だぞ。」 芳太郎もその声に後ろを振り向いた。
ロータリーはラッシュも過ぎかけて静まり返っている。 そこへトラックが飛び込んできたのだ。
危うく数人の男が巻き込まれそうになってトラックも止まった。 そして、、、。
「早く消えやがれ!」という怒声が聞こえてきた。 「あの声は、、、。」
そう、伊三郎の弟、孝弘である。 男たちの姿が消えるとやつはトラックをロータリーの真ん中に据え置いた。
「ここで何をする気なんだろう?」 「まあまあ、管轄の刑事さんたちに任せときなさいよ。 飲んでるんだから。」
「親父さん、肝と何か適当に焼いてくれるか?」 そこに見たことの無い男が入ってきた。
「味は任せてもらうけどいいかい?」 「いいよ。 早く頼む。」
サングラスをしているから特徴は分からないが、見たことが無いことだけははっきりしている。 芳太郎は何気に皮を齧っている。
ロータリーの方ではトラックがエンジンを吹かしたり止めたりしている。 イライラしているようだ。
ラジオのニュースが聞こえた。 「伊三郎氏ですが、、、懸命な治療が続けられています。 予断は許さないようですが、、、。」
その時、けたたましいパトカーのサイレンが聞こえた。 (何だろう?)と思って見てみると、、、。
ロータリーの前を爆走する車が居る。 どうやらそいつを追い掛けてきたらしい。
「今夜はあれやこれやと賑やかなもんだな。 焼けたよ。」 サングラスの男に親父さんは無表情で焼けた物を差し出す。
男はそれをぶっきらぼうに齧りながらトラックを見ている。 その表情が何とも言えない。
親父さんは新しい肝を焼き台に載せた。 「いい匂いだねえ。」
「そうかい?」 「この少し焦げたような匂いが好きなんだよ 俺は。」
男は初めて笑った。 芳太郎はその時に(おや?)っと思った。
実はその男、二代くらい前の県警本部長だったのだ。 彼、高橋正幸は真正直な人間で芳太郎のことも可愛がってくれていた。
退職後、しばらくは公安委員会で事務仕事をしていたのだが、2年ほど前に辞めてしまって以来、どうしているのか分からなかった。
「もしかして高橋さんでは?」 芳太郎はおずおずと聞いてみた。
「おー、芳太郎君じゃないか。 ここで飲んでたのか?」 彼は耳打ちするように答えた。
「どうしたんです?」 「実はね、やばい男が動き出すようなんだよ。」
「やばい男?」 「そうだ。 君も知ってるだろう?」
芳太郎はふと考えた。 危ないやつと言えば数人の顔が浮かんでくる。
そのうちの伊三郎はさっきのニュースの通りだ。 となると?
高橋は金を払うと芳太郎の肩をポンと叩いて闇の中へ消えて行った。
「何も無ければいいんだが、、、。」 親父さんも高橋の後姿を目で追っていた。
やや有ってトラックが爆音を響かせて走り去っていくとロータリーはまた静けさを取り戻したようだ。
芳太郎も金を払ってタクシーを呼んだ。 その中でのこと、、、。
運転手は黙ってラジオを聞いていた。 「速報です。」
アナウンサーの緊迫した声が聞こえる。 「懸命な治療を続けられていた伊三郎氏が亡くなりました。」
「何だって? 死んだ?」 運転手も一瞬動転したようだ。
「ごめんな。 取り乱しちまって、、、。」 「いいよいいよ。 あれだけの大物が殺されたとなったら誰だって穏やかじゃいられないよ。」
「お客さん 分かってるねえ。 もしかして伊三郎の関係者かい?」 「いやいや、そんなもんじゃない。 まったく関係は無いよ。」
「そっか。 伊三郎だったらこの辺じゃあ知らないやつは居ないからなあ。 あはははは。」 運転手は豪快に笑ってみせるのだが、、、。
芳太郎はそんな運転手と別れて家に帰ってきた。 張り込みの後の伊三郎襲撃とあって何だか疲れ切っている。
居間に入ると背広も脱がずにそのまま倒れるように寝てしまった。
その頃、県警は大騒ぎである。 伊三郎が死んだのだから無理も無い。
県下の警察という警察に緊急司令が飛んだのである。 「伊三郎を巡って抗争が起きる危険が有る。 油断しないように。」
そして県警本部に捜査一課長が集められることになった。 真夜中の結集である。
もちろん大谷署でも課長は県警に詣でていた。 「これからが大変だぜ。」
刑事たちも特攻の準備である。 しかし何処で誰が何をしでかすか全く予想が出来ない。
「相手は超一流の反社だからな。 何が起きてもおかしくない。 こちらも臨戦態勢で臨まなければ、、、。」
捜査員たちもさっきから情報収集に余念が無い。 「引継ぎでミスらないようにしないとな、、、。」
川嶋の弟だってどう出てくるか分からない。 優しい顔をしているが竹を割ったような男だから、、、。
翌日は朝から揃いも揃って戦闘モードである。 芳太郎はそんな捜査一課の隅っこで窓の外を見詰めている。
「ではこれから3班に分かれて行動する。 1班は武村義也を中心に張ってくれ。」 「分かった。」
「2班は川嶋の周辺を見張ってくれ。」 「了解。」
「3班はだな、寺本直子がどう動くかを見ていてくれ。」 「分かった。」
寺本直子というのは伊三郎の愛人の一人である。 名家の生まれだけ有って余程のことが無いと警察だって手が出せない。
(厄介なことにならなければいいが、、、。) 芳太郎は出動した捜査員たちを見ながらそう思った。
彼は今日も暖かい窓際で与えられた資料の整理をしている。 ここ数年の検挙者数の動向調査である。
「警部補は留守番をしていてください。 何か連絡が入ったらスマホにお願いしますよ。」 そう言って課長も出陣して行った。
たかが留守番、されど留守番である。 昼を過ぎた頃から情報がいろいろと入ってきた。
「寺本直子が動き出しました。 追跡します。」 「川嶋が水谷商会のビルに入りました。」
「武村は動きません。」 それぞれの報告を聞きながら芳太郎は時系列ごとに記録していく。
「寺本が水谷商会に入りました。」 この報告にはさすがに緊張が走ったらしい。
水谷商会と言えば川嶋伊三郎の叔父の兄が経営している会社である。 そこでいったい何が、、、?
以前、探りを入れて殺された刑事が話していた。 「あそこは銃と銃弾を扱っている。」と。
よくそこまで調べられたものだ。 あそこは警備が厳しいからなかなか入れないのだが、、、。
「女だよ。 女を潜らせて情報を掴んだんだ。」 もちろん、リスクは覚悟の上。
その女だって今はどうしているのか分からない。 韓国に居るような噂は有るのだけれど、、、。
「水谷敬一郎が出てきました。」 午後4時を回った頃だ。
捜査一課も3交代で張り込むらしいから次の捜査班が出ていく頃だ。 「やあ、大森さんじゃないか。」
懐かしい声が芳太郎の背中に聞こえた。 振り返ると銃器対策課の吉竹守である。
「おー、どうしたんだ?」 「川嶋の事件で招集されたんだよ。 こいつはやばいことになりそうだな。」
「そうか。」 「落ち込んでるのか?」
「いや、なんとなく嫌な予感がするんだ。」 「まあまあ、心配するな。 うまくやってやるよ。」
「気になるのは寺本直子なんだよ。 何であいつが、、、。」 「伊三郎の愛人だったから怒り心頭なんだろう? よく有ることだよ。」
「でも相手は、、、。」 「そいつは分からない。 伊三郎を殺したのが誰なのかさっぱり分からないんだ。」
「それが寺本なんじゃないのか?」 「愛人が伊三郎を? 有り得ないよ。」
「分からんぞ。 金や薬が絡めば、、、。」 「まあまあ、その辺も調べが付けば分かるだろうよ。 じゃあ、行くから。」
吉竹が出て行った後、通信係を木村雄介に頼んで芳太郎は課を出た。 珍しく真っ赤な夕日が顔を照らしている。
大谷署の前をけたたましくサイレンを鳴らして警邏隊のパトカーが走り過ぎて行った。 (何だろう?)
不思議には思ったが管轄外だということも有って彼はさっさと駅へ歩いて行った。 実は、、、。



