竜星トライアングル ポンコツ警部のドタバタ日記

 「仏さんの身元が判明した。 安倍の内縁の妻 吉岡瑞樹だ。」 「何だって? 殺された安倍に内縁の妻が居たのか?」
「しかも吉岡瑞樹とは、、、。」 「あの女は確かアフリカかどっかの外交官と出来てたんじゃ、、、?」
「おいおい、それだったら大変な問題だぜ。」 「銃弾は胸に一発。 真正面から狙われた模様。」
 「真正面から一発で仕留めるなんてかなりの腕だぞ。」 「川嶋のグループにそんなのが居るのか?」
「でもやつらなら可能性は高い。 冴羽亮もびっくりだな。」 捜査員たちの話はまだ続いている。
 芳太郎は帰る支度をして椅子を立った。 「そういえば警部補、寺本直子がこの辺りに来てたんだって?」
「ああ。 そこの食堂で炒飯を食べてたよ。」 「俺たちの動きを見てたんだな。」
「可能性は有る。 何かやってませんでした?」 「スマホを開いて何かしてたんだが、、、。」
「やつのスマホはドコモだな? 調べてくれ。」 「分かりました。」
 捜査員がざわついてきたところで芳太郎は部屋を出た。 夕日が眩しい。
あの食堂の前を通る。 見慣れない車が駐車場に止まっているのが見えた。
(あれは何だろう?) 気になった彼は向かいのコンビニに入っていった。
 銀と黒のツートンカラー。 ワンボックスの車である。
芳太郎は店の電話を借りた。 「食堂 鹿島に見慣れないワンボックスカーが止まっている。 中には男が二人。 注意されたい。」
「了解。 屋上から監視します。」 その声を聞いた芳太郎は駅へ向かった。
 電車はいつものように混んでいる。 揉みクシャにされながら彼も手摺につかまっている。
駅に着くたびにドドっと客が押し寄せてくる。 いつもの駅で降りた時には彼も疲れ切っていた。
 「やあ、今夜も飲むかい?」 「そうだね。 頼むよ。」
ロータリー傍の屋台は今日もいい匂いを振り撒いてくれている。 (生きてて良かった。)と思う瞬間だ。
親父さんは今夜も皮や肝を焼きながら人の流れを見詰めている。 「今夜は賑やかだねえ。」
「もうすぐ祭りだからじゃないのか?」 「そうか。 祭りか。」
 毎年5月中旬に賑やかに行われる元気祭りのことだ。 名前が名前だから元気なやつが多い。
土曜日の午後から日曜日の夜まで出店やら歌謡ショーやら即売会やら籤引きやらいろいろとやるらしい。
でも芳太郎は一度として来たことが無い。 いつもいつも公務の最中だったから。
 ラジオは今夜もナイター中継だ。 広島と阪神がやっているらしい。
日本酒を飲みながら親父さんが焼いている皮を見詰めている。 (あの食堂は大丈夫だろうか?)
「何か気になることでも有ったのか?」 暗示顔の芳太郎に親父さんが聞いてきた。
「いやいや、いつもの癖だよ。」 「そうか。 それならいいんだが、、、。」
 今夜もラジオが掛かっている。 野球中継のはずだが、雨で中止になったらしい。
「ここで臨時ニュースです。」 アナウンサーが割って入った。
「臨時ニュースだって?」 芳太郎も親父さんも手を止めた。
 「午後6時半ごろ、大谷警察署近辺の食堂 鹿島で爆発火災が起きました。 死傷者が出ている模様です。 もう一度お伝えします。 午後6時半ごろ、、、。」
「大谷警察署ってあんたが務めてる警察署だよなあ?」 「そうだ。 嫌な予感がしてたんだが、、、。」
「警察には伝えなかったのか?」 「いや、監視も付けてもらっていたはずだ。」
「だったら未然に防げるんじゃないか?」 「とは思うけどみんな出払ってたら何も出来ない。」
「それはそうだけど、、、。」 そこへ続報が出てきた。
 「死傷者の情報が分かりました。 食堂のオーナーと若い女性と大谷署刑事の木村隆文さんです。」
「木村刑事だって?」 「どうかしたのか?」
「木村君は水谷商会の事件を捜査していた刑事ですよ。」 「だったらやられるわな。」
芳太郎は肝を齧りながら木村刑事を思った。 将来的には有望な人間だったという。
そんな彼がなぜ? しかし、たまたま立ち寄った食堂で巻き込まれたと言ってもいい。
彼には奥さんと女の子が居たはず。 大変だな これから。
 「一方の若い女性ですが、、、。」 アナウンサーは資料を捲っているらしい。
「どうやら写真家の安藤幹代さんらしいですね。」 「写真家だって?」
それにはさすがに二人は同時に声を挙げた。 安藤幹代と言えば数日前に写真集を発表したばかりの駆け出しの写真家ではないか。
その人がなぜ? 疑問は深まるばかりだ。