二人が肝を齧っていると金沢のスマホが鳴った。 「どうした?」
「ますます面倒なことになってきたよ。 寺本直子の家を捜索していた鑑識が報告してきたんだが、、、。」 「なに? 殺された女が寺本直子じゃないって?」
「そうなんだよ。 DNA検査をしたんだがまるで違うんだ。」 「じゃあ誰なんだよ?」
「分からない。 リストに載ってるやつと照合してるんだが合うやつが居ないんだ。」 「ということは嵌められたってことだな。」
「どうもそうらしい。 寺本直子のそっくりさんが殺されたわけだ。」 「読めなくなってきたぞ。 明日は昼から出るからその時に資料を見せてくれ。」
「分かった。」
どうやらこの事件はいよいよややこしい方向へ進んでいるらしい。 どうにも訳が分からない。
そこへ川嶋の車が通り掛かった。 「あれは川嶋だぞ。 あの男を乗せるようだな。」
と思った次の瞬間、男が倒れるのが見えたからロータリーは一瞬で大騒ぎになってしまった。 「やられたぞ。 駅前に来てくれ。」
金沢が近くに居た警邏隊を呼び集めた。 「あの車は居ないなあ。」
「緊急手配だ。 ナンバーは、、、。」 無線があちらこちらで飛び交っている。
救急隊がやってきた。 「それにしてもここは事件が多いなあ。」
「まったくだ。 余程に狙いやすいものと見える。」 「今夜はここでお開きだ。 明日また来てくれよ。」
親父さんはそう言うと焼き台の火を消した。
芳太郎はそれからロータリーを一周してみた。 (何処で誰がどうやってあいつを?) 解けない謎が謎を呼ぶ。
川嶋の車が走ってきた方向に目をやる。 そちらには何も無い。
(だとすると、、、。) 彼は駅玄関の上に目をやった。
「ん? あれは何だ?」 2階の通路に当たる所に何かが引っかかっている。 そこで芳太郎は駅員を呼び集めた。
「そうなんです。 先ほどの男性が倒れた事件で、、、。」 「確かにあれは変だな。 調べてみよう。」
駅員の数人が2階へ駆け上がっていった。 その場所は男が立っていた辺りから見れば真正面に見えている所だ。
後の報告は翌日に受けることにして芳太郎は家へ帰っていったが、どうも気持ちが収まらない。
布団に入ってもどうも寝れそうにないのだ。 そこで彼は居間で一晩を過ごすことにした。
深夜のバラエティーを見てみる。 面白いとは思うが中身が耳に入ってこない。
寝転がって天井を仰いでみる。 でも死んだ娘のことが気になって落ち着かない。
結局、まともに寝れないまま朝を迎えてしまった。 捜査一課は今日も突撃体制である。
「寺本直子が死んでいないとすればやつは何処で何をやらかそうとしてるんだ?」 「それが分かったら俺たちは飯が食えなくなるよ。」
「それもそうだが、考えていかないとまずいことになりはしないか?」 「そうなんだが、、、。」
「あの県庁付近で見付けた女が居ましたよね?」 「ああ、寺本を装ってた女だな?」
「そうです。 あれからずっと不思議に思っていたんですが、本人が変声器でも使っていたんじゃないでしょうか?」 「止せよ。 名探偵コナンじゃないんだぜ。」
「可能性は有ります。 声の資料を詳しく分析させてください。」 「分析してどうするんだ?」
「今はAIだって簡単に使える時代です。 それくらいは簡単に出来ますよ。」 「そこまで言うなら成田君 責任を持ってやりたまえ。」
「はい。」 一課では人知お宅と呼ばれている成田修一が鑑識官の部屋へ飛んでいった。
「しかし川嶋も水島も何をやってるんでしょうなあ?」 「何もやってないでしょう。」
「おやおや、警部補はなぜそのように思われるんですかな?」 「これまでの経過中、この二人が表に出たことは無いんです。」
「そりゃあボスですからなあ。 ボスが出るのは最後でしょう?」 「それにしても奇怪な事件が多過ぎます。 雑木林で女が殺されていたあの事件だって。」
「あの事件は終わったんですぞ。」 「時候の上ではね。 でもまだ何か燻ぶってますよ。」
「警部補も田村刑事のように消されますぞ。 いいんですかな?」 「誰が消すんですか?」
「それは言えませんがね。 まあお気を付けくださいな。」 課長はそう言い捨てると捜査に出ていった。
田村康孝、熱血漢の刑事だった。 あの事件に踏み込んで一か月後に彼は毒殺されたんだ。
状況はどう見ても他殺だったが県警は自殺と認定して事件を封じ込めてしまった。 自宅には遺書まで有ったというのだから遺族でさえ引き下がらないわけにはいかなかった。
もちろん、その発表に異議を唱えた人たちも居る。 ところが数年と経たないうちにその声は萎んでしまったのだ。
有名な弁護士も手を上げたが2年後に湖で沈んでいるのが発見されて誰もがあの事件に触らなくなってしまった。
警察の中に居ても絶対に触れない事件なのである。 「あんたも殺されるぞ。 いいのか?」
通りすがりの男が吐き捨てた言葉を芳太郎は思い出した。 そしてそれから三日ほど彼は休暇を取った。
木曜日の朝、彼は県庁近くの雑貨屋に立ち寄っていた。 特にこれという趣味も興味も無いのだが、、、。
ここで緒方と待ち合わせているのだ。 9時半を少し過ぎた頃、緒方は一人でやってきた。
互いに目配せをしながら店内を歩き回り、ノートなどを篭に入れてレジに並ぶ。 それから店を出て近くの喫茶店へ。
「ここは県警も重要視している喫茶店だ。 だからやつらも迂闊に手は出せないよ。」 2階の静かな部屋でコーヒーを飲みながら緒方は切り出した。
「寺本直子が死んだというが、あれはどうなんだろうねえ?」 「鑑識の話ではまったくの別人だそうですね。」
「やっぱり偽装してきたか。」 「と言いますと?」
「寺本直子には義理の姉が居るんだよ。」 「義姉ですか?」
「そう。 雨宮紀子とか言ったっけなあ。 この女がまた直子によく似てるんだ。」 「しかしなぜ義姉が?」
「直子には兄貴が居たんだ。 10年ほど前に交通事故で死んでいるんだがね。」 「その人と雨宮紀子が?」
「そうだ。 兄の徹は雨宮家に婿入りしたんだよ。」 「それで雨宮紀子が義姉になったわけですね?」
「ところがだ。 雨宮家は古くからの資産家で世界中にコネを持っていた。 それに気付いた徹は乗っ取ろうとしたんだね。」 「それで交通事故に見せ掛けて?」
「そういうことになる。 しかしこれ以上は話せない。」 「なぜです?」
「君や本部長の命が危なくなるからな。」 緒方はそれ以後、黙り込んでしまった。
(何か有るぞ。 得体の知れない何かが有る。) 芳太郎はそう思ったがこれ以上追及することは出来なかった。
店を出た二人はバス停まで歩いてきた。 「これからも大変だとは思うが頑張ってくれよ。」
バス停で言葉を交わしながらバスを待っている時だった。 パンという乾いた音が聞こえて緒方が崩れ落ちるように倒れた。
「緒方さん!」 「俺のことはいいからさっさと署に行け!」
「でも、、、。」 「心配するな。 こうなることは分かっていたんだ。」
誰かが呼んだ救急車に乗せられる緒方を見送って芳太郎は家に帰ってきた。
その夜、10時過ぎ、緒方の妻が芳太郎に電話を寄越した。 「主人がたった今、旅立ちました。 大森さんに頑張れって伝えてほしいと言い残して。」
「そうですか。 私も狙撃された瞬間は同じ場所に居ました。 残念です。」 「警察官である以上、慕われる陰で相当に恨みも買います。 主人は真正直な人でしたから。」
何度も命を狙われたことが有る。 何度も死にかけたことが有る。
それが警察官だと緒方は言っていた。 そして今日、彼は死んでいったのだ。
(雨宮紀子、、、、。 この女が何かを握っているかもしれない。) 芳太郎は真夜中の捜査一課に飛び込んでいった。
捜査一課ではたちまちに雨宮紀子の話題が沸騰してきた。 「とはいうけど、何処の誰なんだよ?」
「雨宮家と言えばインドネシアとかカンボジアとか東南アジアで商売を成功させてきた資産家じゃないか。 そこの娘さんだろう? 寺本みたいな貧乏生まれの男に近寄るかね?」 「分からんよ。 親同士の政略も有るかもしれん。」
「今、そいつは生きてるのかね?」 「さあ、それがどうもおかしいんだ。 出国しているようなんだよ。」
「出国? じゃあ追い掛けようにも追い掛けられないじゃないか。」 「今、外務省に問合わせ中だ。 何とも言えんよ。」
そこへ声紋鑑定をしていた成田が戻ってきた。 「どうだった?」
「やっぱり変声器を使ってました。 こっちが本物です。」 「何だって? じゃあ直子は別人に成りすましていたってわけか。」
「そうです。 つまりは殺されていたのも別人です。」 「それはいったい誰なんだ?」
「おそらくは寺本直子によく似ている人間かと、、、。」 「では雨宮紀子が?」
「その可能性は十分に有りますよ。 調べたほうが、、、。」 「よし。 寺本直子の身辺を洗い直すんだ。」
捜査員はまたまた夜中の街へ飛び出していった。
「ますます面倒なことになってきたよ。 寺本直子の家を捜索していた鑑識が報告してきたんだが、、、。」 「なに? 殺された女が寺本直子じゃないって?」
「そうなんだよ。 DNA検査をしたんだがまるで違うんだ。」 「じゃあ誰なんだよ?」
「分からない。 リストに載ってるやつと照合してるんだが合うやつが居ないんだ。」 「ということは嵌められたってことだな。」
「どうもそうらしい。 寺本直子のそっくりさんが殺されたわけだ。」 「読めなくなってきたぞ。 明日は昼から出るからその時に資料を見せてくれ。」
「分かった。」
どうやらこの事件はいよいよややこしい方向へ進んでいるらしい。 どうにも訳が分からない。
そこへ川嶋の車が通り掛かった。 「あれは川嶋だぞ。 あの男を乗せるようだな。」
と思った次の瞬間、男が倒れるのが見えたからロータリーは一瞬で大騒ぎになってしまった。 「やられたぞ。 駅前に来てくれ。」
金沢が近くに居た警邏隊を呼び集めた。 「あの車は居ないなあ。」
「緊急手配だ。 ナンバーは、、、。」 無線があちらこちらで飛び交っている。
救急隊がやってきた。 「それにしてもここは事件が多いなあ。」
「まったくだ。 余程に狙いやすいものと見える。」 「今夜はここでお開きだ。 明日また来てくれよ。」
親父さんはそう言うと焼き台の火を消した。
芳太郎はそれからロータリーを一周してみた。 (何処で誰がどうやってあいつを?) 解けない謎が謎を呼ぶ。
川嶋の車が走ってきた方向に目をやる。 そちらには何も無い。
(だとすると、、、。) 彼は駅玄関の上に目をやった。
「ん? あれは何だ?」 2階の通路に当たる所に何かが引っかかっている。 そこで芳太郎は駅員を呼び集めた。
「そうなんです。 先ほどの男性が倒れた事件で、、、。」 「確かにあれは変だな。 調べてみよう。」
駅員の数人が2階へ駆け上がっていった。 その場所は男が立っていた辺りから見れば真正面に見えている所だ。
後の報告は翌日に受けることにして芳太郎は家へ帰っていったが、どうも気持ちが収まらない。
布団に入ってもどうも寝れそうにないのだ。 そこで彼は居間で一晩を過ごすことにした。
深夜のバラエティーを見てみる。 面白いとは思うが中身が耳に入ってこない。
寝転がって天井を仰いでみる。 でも死んだ娘のことが気になって落ち着かない。
結局、まともに寝れないまま朝を迎えてしまった。 捜査一課は今日も突撃体制である。
「寺本直子が死んでいないとすればやつは何処で何をやらかそうとしてるんだ?」 「それが分かったら俺たちは飯が食えなくなるよ。」
「それもそうだが、考えていかないとまずいことになりはしないか?」 「そうなんだが、、、。」
「あの県庁付近で見付けた女が居ましたよね?」 「ああ、寺本を装ってた女だな?」
「そうです。 あれからずっと不思議に思っていたんですが、本人が変声器でも使っていたんじゃないでしょうか?」 「止せよ。 名探偵コナンじゃないんだぜ。」
「可能性は有ります。 声の資料を詳しく分析させてください。」 「分析してどうするんだ?」
「今はAIだって簡単に使える時代です。 それくらいは簡単に出来ますよ。」 「そこまで言うなら成田君 責任を持ってやりたまえ。」
「はい。」 一課では人知お宅と呼ばれている成田修一が鑑識官の部屋へ飛んでいった。
「しかし川嶋も水島も何をやってるんでしょうなあ?」 「何もやってないでしょう。」
「おやおや、警部補はなぜそのように思われるんですかな?」 「これまでの経過中、この二人が表に出たことは無いんです。」
「そりゃあボスですからなあ。 ボスが出るのは最後でしょう?」 「それにしても奇怪な事件が多過ぎます。 雑木林で女が殺されていたあの事件だって。」
「あの事件は終わったんですぞ。」 「時候の上ではね。 でもまだ何か燻ぶってますよ。」
「警部補も田村刑事のように消されますぞ。 いいんですかな?」 「誰が消すんですか?」
「それは言えませんがね。 まあお気を付けくださいな。」 課長はそう言い捨てると捜査に出ていった。
田村康孝、熱血漢の刑事だった。 あの事件に踏み込んで一か月後に彼は毒殺されたんだ。
状況はどう見ても他殺だったが県警は自殺と認定して事件を封じ込めてしまった。 自宅には遺書まで有ったというのだから遺族でさえ引き下がらないわけにはいかなかった。
もちろん、その発表に異議を唱えた人たちも居る。 ところが数年と経たないうちにその声は萎んでしまったのだ。
有名な弁護士も手を上げたが2年後に湖で沈んでいるのが発見されて誰もがあの事件に触らなくなってしまった。
警察の中に居ても絶対に触れない事件なのである。 「あんたも殺されるぞ。 いいのか?」
通りすがりの男が吐き捨てた言葉を芳太郎は思い出した。 そしてそれから三日ほど彼は休暇を取った。
木曜日の朝、彼は県庁近くの雑貨屋に立ち寄っていた。 特にこれという趣味も興味も無いのだが、、、。
ここで緒方と待ち合わせているのだ。 9時半を少し過ぎた頃、緒方は一人でやってきた。
互いに目配せをしながら店内を歩き回り、ノートなどを篭に入れてレジに並ぶ。 それから店を出て近くの喫茶店へ。
「ここは県警も重要視している喫茶店だ。 だからやつらも迂闊に手は出せないよ。」 2階の静かな部屋でコーヒーを飲みながら緒方は切り出した。
「寺本直子が死んだというが、あれはどうなんだろうねえ?」 「鑑識の話ではまったくの別人だそうですね。」
「やっぱり偽装してきたか。」 「と言いますと?」
「寺本直子には義理の姉が居るんだよ。」 「義姉ですか?」
「そう。 雨宮紀子とか言ったっけなあ。 この女がまた直子によく似てるんだ。」 「しかしなぜ義姉が?」
「直子には兄貴が居たんだ。 10年ほど前に交通事故で死んでいるんだがね。」 「その人と雨宮紀子が?」
「そうだ。 兄の徹は雨宮家に婿入りしたんだよ。」 「それで雨宮紀子が義姉になったわけですね?」
「ところがだ。 雨宮家は古くからの資産家で世界中にコネを持っていた。 それに気付いた徹は乗っ取ろうとしたんだね。」 「それで交通事故に見せ掛けて?」
「そういうことになる。 しかしこれ以上は話せない。」 「なぜです?」
「君や本部長の命が危なくなるからな。」 緒方はそれ以後、黙り込んでしまった。
(何か有るぞ。 得体の知れない何かが有る。) 芳太郎はそう思ったがこれ以上追及することは出来なかった。
店を出た二人はバス停まで歩いてきた。 「これからも大変だとは思うが頑張ってくれよ。」
バス停で言葉を交わしながらバスを待っている時だった。 パンという乾いた音が聞こえて緒方が崩れ落ちるように倒れた。
「緒方さん!」 「俺のことはいいからさっさと署に行け!」
「でも、、、。」 「心配するな。 こうなることは分かっていたんだ。」
誰かが呼んだ救急車に乗せられる緒方を見送って芳太郎は家に帰ってきた。
その夜、10時過ぎ、緒方の妻が芳太郎に電話を寄越した。 「主人がたった今、旅立ちました。 大森さんに頑張れって伝えてほしいと言い残して。」
「そうですか。 私も狙撃された瞬間は同じ場所に居ました。 残念です。」 「警察官である以上、慕われる陰で相当に恨みも買います。 主人は真正直な人でしたから。」
何度も命を狙われたことが有る。 何度も死にかけたことが有る。
それが警察官だと緒方は言っていた。 そして今日、彼は死んでいったのだ。
(雨宮紀子、、、、。 この女が何かを握っているかもしれない。) 芳太郎は真夜中の捜査一課に飛び込んでいった。
捜査一課ではたちまちに雨宮紀子の話題が沸騰してきた。 「とはいうけど、何処の誰なんだよ?」
「雨宮家と言えばインドネシアとかカンボジアとか東南アジアで商売を成功させてきた資産家じゃないか。 そこの娘さんだろう? 寺本みたいな貧乏生まれの男に近寄るかね?」 「分からんよ。 親同士の政略も有るかもしれん。」
「今、そいつは生きてるのかね?」 「さあ、それがどうもおかしいんだ。 出国しているようなんだよ。」
「出国? じゃあ追い掛けようにも追い掛けられないじゃないか。」 「今、外務省に問合わせ中だ。 何とも言えんよ。」
そこへ声紋鑑定をしていた成田が戻ってきた。 「どうだった?」
「やっぱり変声器を使ってました。 こっちが本物です。」 「何だって? じゃあ直子は別人に成りすましていたってわけか。」
「そうです。 つまりは殺されていたのも別人です。」 「それはいったい誰なんだ?」
「おそらくは寺本直子によく似ている人間かと、、、。」 「では雨宮紀子が?」
「その可能性は十分に有りますよ。 調べたほうが、、、。」 「よし。 寺本直子の身辺を洗い直すんだ。」
捜査員はまたまた夜中の街へ飛び出していった。



