駅前での刺殺事件をきっかけにして事件が事件を呼び、何が何処でどう絡んで誰が出てくるのか読めないヘンテコな空気に包まれてきた。 「そういえば銃撃された人たちはどうなったんだ?」
刑事の一人が聞いた。 「ああ、あれか。 半分は間に合わなかったよ。 でもな、マンションに突入した部隊が犯人を何とか捕まえたから何か分かるだろうよ。」
ウォーターカッターまで持ち出してのすごい時間戦だったという。 おかげでマンションは居住不能になってしまったけれど、、、。
今日もあちらこちらで張り込みが続いている。 銃器対策課も神経を尖らせている。
どうも川嶋の動きが読めなくて。
芳太郎はというと首の沢へ向かうバスに乗っていた。 (何か分かればいいんだがな、、、。)
髪の長い女同士が言い争っていた。 状況証拠はそれだけである。
直子も友恵も長髪だ。 だからといって犯人だというわけではない。
それだけでは証拠能力が弱過ぎる。 もっと強力な証拠は無いものか?
8年ほど前の事件であれば友恵が結婚した2年後の事件ということになる。 しかし何のために起こしたのか?
30分ほどでバスは首の沢に着いた。 降りてみると田んぼと雑木林が広がる田舎である。
「こんな所で殺されていたなんて、、、。) 畦道の手前に墓印らしい物が建っている。 供養塔なのか前にはお供え物が置いてある。
「確か被害者も名前すら分かってないんだよな。 とすると犯人は証拠を残させなかったことになる。」 被害者のプロフィールを消滅させるということは知られてはまずい何かが有るはずだ。
何処かにどちらかの顔を見た人が居るのではないか? そう思った彼は歩き始めた。
すぐ傍には公民館が有る。 事件の話を聞いてみようか。
そこに居たのは60代の男だ。 「ああ、あの事件なら覚えてるよ。 そこの田んぼで女が喧嘩してたんだ。)
「田んぼで?」 「そうだよ。 この辺りの田んぼは地主の物だからねえ。)
「地主と何か有ったんですか?」 「賃借料を値上げするって話が出てきてね。 農家と地主が争ってたんだ。)
「そんなに?」 「年間2万円も上げられたらそりゃあ苦しむだろう。 それで喧嘩してたわけだ。」
「決着は付いたんですか?」 「終いには町長と組合長が話し合ってやっと落ち着いたんだよ。」
(田んぼの地上げが喧嘩になあ。) どうもピンと来ない話だ。
それだったら何も殺し合うことは無いだろうに。 そう思っていたら、、、。
「あの女の殺人事件だろう?」って聞いてきた人が居る。 「あれは惨かったよ。」
「どうしてです?」 「殺された方の女は身包み剥がされて雑木林の木の根元に座らされてたんだから。」
「身包み剥がして、、、?」 「そうだ。 素っ裸にして座らせてたんだ。」
「でもそれだったら顔も分るでしょう?」 「ところがさあ警察は身元不明のままで処理したんだヨ。」
「身元不明だって?」 「余程に探られたくない人間だったみたいだなあ。」
芳太郎は話を聞いて雑木林に行ってみた。 数本の木が切り倒されたような跡が有る。
(探られたくない人間か、、、。) 謎が謎を呼び事件が事件を呼ぶ。
泥濘に嵌り込んでしまった感が有るのだが進まないと何も解決しない気がする。 彼は通りに出てきた。
「あの事件を探ってるのか? それだったらやめとけ。 あんたも死ぬぞ。」 土木作業員らしい男がそう言って去っていった。
捜査本部はというと今日も出たり入ったりの大騒ぎである。 「いつ何処で誰が何をやらかすかさっぱり予想が付かないんじゃあ消耗戦だぜ。」
捜査員の一人がそうぼやいて出ていった。 警邏隊も緊張しっぱなし。
パトカーは四六時中事件を探している。 街中の交番では巡査が対応に追われている。
そんな時に刑務所から一人の女が仮釈放されて出てきたという。 聞いた話では直子の弟の嫁だった女らしい。
「田宮洋子が釈放されました。」 「何だって? 田宮が?」
「あいつは確か覚醒剤取締法違反だったよな?」 「そうです。 売人でした。」
「古巣に戻るはずだ。 警戒しておけ。」 「了解。」
「田宮がねえ。 こりゃまた人騒がせな女が出てきたなあ。」 「何でです?」
「警部補も知ってるでしょう? やつは直子の関係者ですよ。」 「それはそうだけどそれがどうかしたのか?」
「ということは川嶋も狙っていたってことですよ。」 「なぜ?」
「覚醒剤と来れば金です。 いいやつなら億単位で金が動きますからなあ。」 「確かにそうだな。 そこに不法滞在の人間を使えば、、、。」
「それで直子のスナックを隠れ蓑にしていたわけですよ。」 「じゃあ何で安倍が、、、?」
「おそらく覚醒剤に気付いて直子を焚き付けたんでしょう。 そうなると川嶋は面白くない。」 「だから安倍を殺した?」
「単純に考えればそうなりますが、やつらのことですからなあ。」 「安倍の身辺を捜査しなきゃ、、、。」
「それならもう管轄の署が始めてますよ。 ははは。」 次長は軽く笑ってから捜査に出ていった。
それにしてもややこしい話である。 田宮洋子が出てきたことで何が起きるかますます分からなくなってきた。
一日の仕事を終えて芳太郎はまた焼鳥屋へやってきた。 「おー、来ましたか。」
親父さんは今日も相変わらずで水を飲みながら皮を焼いている。 「えらいことになりそうだね。」
「ああ。 覚醒剤の売人が釈放されたからね。」 「あいつらに無期懲役は無いのかい?」
「殺しでもやらなきゃ無理だろう。」 「廃人にしちまうんだから殺したも同然だろうになあ。」
「ところがさあそこから先は死のうがどうしようがお構いなしなんだよ。」 「つめてえなあ。」
「中毒になっちまえば常識はもちろん通用しない。 こちらの言うことが通用しないんだから殺そうがどうしようが手を出さないんだよ。」 「虫けらの喧嘩みたいだな。」
「もう人間じゃないんだ。 中毒患者を見たことは有るけどあれはあれで悍ましいもんだね。」 「今日も日本酒でいいか?」
「頼むよ。 酔っ払いたい気分だ。」 駅前ロータリーは客待ちのタクシーが並んでいる。
天気予報では夜から雨だという。 (こんな時に事件が起きなきゃいいが、、、。)
いつものように肝を齧っているとポンと肩を叩くやつが居る。 振り向いてみたらそれは捜査員の一人 金沢一郎だった。
「警部補も来てたんですか?」 「そうだよ。 ここは馴染みの店だから。)
「田宮が出てきましたね。」 「あれはえらいことになりそうだな。」
「警部補もそう思いますか?」 「派手に掻き回してた女だ。 何が起きても不思議じゃないよ。」
二人は辺りを気にしながら飲んでいる。 聞こえているラジオはナイター中継らしい。 (今夜は平和であってくれ。。)
誰もがそう思いたくなる夜である。
「ここでニュースをお伝えします。」 アナウンサーが割って入った。
「今日、午後6時ころ、刑務所から釈放された田宮洋子が北野町公園の女子トイレ内で殺されているのが発見されました。」 「何だって?」
「田宮洋子が殺されたってな。」 「川嶋だ。 やつがやったんだよ。」
「待て待て。 早とちりは危険だよ。」 「安倍と言い田宮といい、川嶋にとってはお荷物と言ってもいいような人間じゃないですか。」
「そうだとは思うけどやつが動いた証拠が無いんだ。 決め付けるのは危険だよ。」 「こりゃあ今夜も危なくなりそうだな。」
「北野町公園なら大町署だな。 鑑識も動いてるだろう。」 「たぶんね。」
金沢はスマホを取り出した。 「そっちはどうだい?」
「どうだいってハチャメチャなことになってきたよ。 何が何何だか分からなくなってきてる。」
「そうか。 直子と洋子の事件は繋がりそうか?」 「そこは今の所 微妙なんだ。 接点が無さ過ぎて。」
「接点が無い? どういうことだ?」 「どっちも薬に絡んではいたんだが直接には繋がってないんだよ。」
「そうか。 それじゃあ捜査も大変だな。」 「そうなんだよ。 目星が付かなくてな。」
金沢は溜息を吐いてからスマホを切った。 「おい、あれは川嶋の仲間じゃないのか?」
親父さんがロータリーをウロウロしているスーツ姿の男を指差した。 「そうだな。 何か待ってるみたいだな。」
芳太郎は気の無い顔で男を見詰めた。 (何処かで見た気が、、、。)
ロータリーはいつも通りに帰宅ラッシュが続いている。 その中にスーツ姿の男が立っているのである。
刑事の一人が聞いた。 「ああ、あれか。 半分は間に合わなかったよ。 でもな、マンションに突入した部隊が犯人を何とか捕まえたから何か分かるだろうよ。」
ウォーターカッターまで持ち出してのすごい時間戦だったという。 おかげでマンションは居住不能になってしまったけれど、、、。
今日もあちらこちらで張り込みが続いている。 銃器対策課も神経を尖らせている。
どうも川嶋の動きが読めなくて。
芳太郎はというと首の沢へ向かうバスに乗っていた。 (何か分かればいいんだがな、、、。)
髪の長い女同士が言い争っていた。 状況証拠はそれだけである。
直子も友恵も長髪だ。 だからといって犯人だというわけではない。
それだけでは証拠能力が弱過ぎる。 もっと強力な証拠は無いものか?
8年ほど前の事件であれば友恵が結婚した2年後の事件ということになる。 しかし何のために起こしたのか?
30分ほどでバスは首の沢に着いた。 降りてみると田んぼと雑木林が広がる田舎である。
「こんな所で殺されていたなんて、、、。) 畦道の手前に墓印らしい物が建っている。 供養塔なのか前にはお供え物が置いてある。
「確か被害者も名前すら分かってないんだよな。 とすると犯人は証拠を残させなかったことになる。」 被害者のプロフィールを消滅させるということは知られてはまずい何かが有るはずだ。
何処かにどちらかの顔を見た人が居るのではないか? そう思った彼は歩き始めた。
すぐ傍には公民館が有る。 事件の話を聞いてみようか。
そこに居たのは60代の男だ。 「ああ、あの事件なら覚えてるよ。 そこの田んぼで女が喧嘩してたんだ。)
「田んぼで?」 「そうだよ。 この辺りの田んぼは地主の物だからねえ。)
「地主と何か有ったんですか?」 「賃借料を値上げするって話が出てきてね。 農家と地主が争ってたんだ。)
「そんなに?」 「年間2万円も上げられたらそりゃあ苦しむだろう。 それで喧嘩してたわけだ。」
「決着は付いたんですか?」 「終いには町長と組合長が話し合ってやっと落ち着いたんだよ。」
(田んぼの地上げが喧嘩になあ。) どうもピンと来ない話だ。
それだったら何も殺し合うことは無いだろうに。 そう思っていたら、、、。
「あの女の殺人事件だろう?」って聞いてきた人が居る。 「あれは惨かったよ。」
「どうしてです?」 「殺された方の女は身包み剥がされて雑木林の木の根元に座らされてたんだから。」
「身包み剥がして、、、?」 「そうだ。 素っ裸にして座らせてたんだ。」
「でもそれだったら顔も分るでしょう?」 「ところがさあ警察は身元不明のままで処理したんだヨ。」
「身元不明だって?」 「余程に探られたくない人間だったみたいだなあ。」
芳太郎は話を聞いて雑木林に行ってみた。 数本の木が切り倒されたような跡が有る。
(探られたくない人間か、、、。) 謎が謎を呼び事件が事件を呼ぶ。
泥濘に嵌り込んでしまった感が有るのだが進まないと何も解決しない気がする。 彼は通りに出てきた。
「あの事件を探ってるのか? それだったらやめとけ。 あんたも死ぬぞ。」 土木作業員らしい男がそう言って去っていった。
捜査本部はというと今日も出たり入ったりの大騒ぎである。 「いつ何処で誰が何をやらかすかさっぱり予想が付かないんじゃあ消耗戦だぜ。」
捜査員の一人がそうぼやいて出ていった。 警邏隊も緊張しっぱなし。
パトカーは四六時中事件を探している。 街中の交番では巡査が対応に追われている。
そんな時に刑務所から一人の女が仮釈放されて出てきたという。 聞いた話では直子の弟の嫁だった女らしい。
「田宮洋子が釈放されました。」 「何だって? 田宮が?」
「あいつは確か覚醒剤取締法違反だったよな?」 「そうです。 売人でした。」
「古巣に戻るはずだ。 警戒しておけ。」 「了解。」
「田宮がねえ。 こりゃまた人騒がせな女が出てきたなあ。」 「何でです?」
「警部補も知ってるでしょう? やつは直子の関係者ですよ。」 「それはそうだけどそれがどうかしたのか?」
「ということは川嶋も狙っていたってことですよ。」 「なぜ?」
「覚醒剤と来れば金です。 いいやつなら億単位で金が動きますからなあ。」 「確かにそうだな。 そこに不法滞在の人間を使えば、、、。」
「それで直子のスナックを隠れ蓑にしていたわけですよ。」 「じゃあ何で安倍が、、、?」
「おそらく覚醒剤に気付いて直子を焚き付けたんでしょう。 そうなると川嶋は面白くない。」 「だから安倍を殺した?」
「単純に考えればそうなりますが、やつらのことですからなあ。」 「安倍の身辺を捜査しなきゃ、、、。」
「それならもう管轄の署が始めてますよ。 ははは。」 次長は軽く笑ってから捜査に出ていった。
それにしてもややこしい話である。 田宮洋子が出てきたことで何が起きるかますます分からなくなってきた。
一日の仕事を終えて芳太郎はまた焼鳥屋へやってきた。 「おー、来ましたか。」
親父さんは今日も相変わらずで水を飲みながら皮を焼いている。 「えらいことになりそうだね。」
「ああ。 覚醒剤の売人が釈放されたからね。」 「あいつらに無期懲役は無いのかい?」
「殺しでもやらなきゃ無理だろう。」 「廃人にしちまうんだから殺したも同然だろうになあ。」
「ところがさあそこから先は死のうがどうしようがお構いなしなんだよ。」 「つめてえなあ。」
「中毒になっちまえば常識はもちろん通用しない。 こちらの言うことが通用しないんだから殺そうがどうしようが手を出さないんだよ。」 「虫けらの喧嘩みたいだな。」
「もう人間じゃないんだ。 中毒患者を見たことは有るけどあれはあれで悍ましいもんだね。」 「今日も日本酒でいいか?」
「頼むよ。 酔っ払いたい気分だ。」 駅前ロータリーは客待ちのタクシーが並んでいる。
天気予報では夜から雨だという。 (こんな時に事件が起きなきゃいいが、、、。)
いつものように肝を齧っているとポンと肩を叩くやつが居る。 振り向いてみたらそれは捜査員の一人 金沢一郎だった。
「警部補も来てたんですか?」 「そうだよ。 ここは馴染みの店だから。)
「田宮が出てきましたね。」 「あれはえらいことになりそうだな。」
「警部補もそう思いますか?」 「派手に掻き回してた女だ。 何が起きても不思議じゃないよ。」
二人は辺りを気にしながら飲んでいる。 聞こえているラジオはナイター中継らしい。 (今夜は平和であってくれ。。)
誰もがそう思いたくなる夜である。
「ここでニュースをお伝えします。」 アナウンサーが割って入った。
「今日、午後6時ころ、刑務所から釈放された田宮洋子が北野町公園の女子トイレ内で殺されているのが発見されました。」 「何だって?」
「田宮洋子が殺されたってな。」 「川嶋だ。 やつがやったんだよ。」
「待て待て。 早とちりは危険だよ。」 「安倍と言い田宮といい、川嶋にとってはお荷物と言ってもいいような人間じゃないですか。」
「そうだとは思うけどやつが動いた証拠が無いんだ。 決め付けるのは危険だよ。」 「こりゃあ今夜も危なくなりそうだな。」
「北野町公園なら大町署だな。 鑑識も動いてるだろう。」 「たぶんね。」
金沢はスマホを取り出した。 「そっちはどうだい?」
「どうだいってハチャメチャなことになってきたよ。 何が何何だか分からなくなってきてる。」
「そうか。 直子と洋子の事件は繋がりそうか?」 「そこは今の所 微妙なんだ。 接点が無さ過ぎて。」
「接点が無い? どういうことだ?」 「どっちも薬に絡んではいたんだが直接には繋がってないんだよ。」
「そうか。 それじゃあ捜査も大変だな。」 「そうなんだよ。 目星が付かなくてな。」
金沢は溜息を吐いてからスマホを切った。 「おい、あれは川嶋の仲間じゃないのか?」
親父さんがロータリーをウロウロしているスーツ姿の男を指差した。 「そうだな。 何か待ってるみたいだな。」
芳太郎は気の無い顔で男を見詰めた。 (何処かで見た気が、、、。)
ロータリーはいつも通りに帰宅ラッシュが続いている。 その中にスーツ姿の男が立っているのである。



