家に帰っても落ち着くわけが無く、自分の部屋で冬眠から覚めた熊みたいに動き回っている。 酔ったはずなのにすっかり酔いも覚めてしまった。
「山川が何で今頃、、、?」 あの辺りにやつの家でも有るのだろうか?
それにしてはこれまで見たことが無いよな。 あの屋台に毎晩のように寄っているが見掛けたのは初めてだ。
何かをやらかす気じゃないだろうなあ? 本棚から捜査記録を取り出してみる。
しかし何処にも山川の記録は無い。 彼の考えは振出しに戻ってしまった。
(取り敢えず明日は緒方さんと会おう。 寺本の話もしなければ、、、、。)
寺本の情報をくれたのも緒方だった。 まだまだ知られていない情報が有るはずだ。
しかし寺本直子は本当にガス自殺したのだろうか? 用済みで消されたのではないだろうか?
とはいってもまだまだやるべきことは有ったはず。 それに秘密裏に進めていた計画も有ったはずだ。
川嶋にしろ水島にしろ途中で消すようなことはしないだろう。 消してしまえば不利になることは分かっているのだから。
それにしても解けない謎が多過ぎる。 裏社会とはこんなにも面倒なのか?
翌日、芳太郎は早めに家を出た。 そして県庁方面に向かった。
「あれあれ? 大森さんじゃないか。 どうしたんだろう?」 隠れていた捜査員がこそこそと話し合っている。
芳太郎はそんなことには気も止めずにマンションへ入っていった。
「おー、大森君か。 どうしたんだね?」 「寺本直子が消されました。」
「そうか。 やっぱり消されたか。」 「やっぱり?」
「そうだ。 あの女はどちらにも首を突っ込んで動き回っていたんだ。 川嶋も水島も今は戦争状態だからな。」 「寺本の家には男が3人居たそうですが、、、、。」
「おそらくそいつらは事件には関係無いよ。 寺本の家には何人も出入りしてるからね。」 「そうなんですか?」
「ああそうだ。 しかし問題なのは栗田友恵という女だ。 こいつは川嶋の弟の前妻だった女でね。 伊三郎の遺産を狙っていた女だ。」
その時、リビングの窓ガラスに銃弾らしい物が撃ち込まれた。 「私を狙っているらしいね。 君も巻き添えを食わないうちに逃げたほうがいい。」
「緒方さんは?」 「俺なら大丈夫だ。 余計なことを喋らなければやつらは撃ってこないから。」
3時間ほど滞在したところで芳太郎はマンションを出た。 その前を右翼らしい男たちを乗せた車が走り去っていった。
「栗田友恵、、、、、か。 調べてみるかな。」」 彼は捜査本部に顔を出した。
「おやおや? 警部補じゃないですか。 何か御用ですかな?」 珍しく署長が出てきた。
「ちょっと調べ物が有りまして。」 「ほう、珍しいですなあ。」
「行ってきます。」 二人の傍を特戦隊の隊員が駆け抜けていった。
芳太郎は資料室に入ると事件ファイルを捲り始めた。 寺本直子はもちろん、栗田友恵の記録もそうである。
友恵は元は助番だった。 高校時代から不良グループとの付き合いも派手だった。
何度か歩道歴も有るというから逮捕されるような事件も、、、。 そう思ったのだ。
ところが直子に比べたら成人してからの動きが無い。 「どうしたんだろう?」
直子は学生時代はエリート女子学生といった感じだったと聞いている。 それが成人式直後に事件を起こすのである。
以来、恐喝や詐欺などの事件が起きると真っ先に疑われる存在になってしまった。 そして消されたのである。
「不思議なもんだな。」 「何が不思議なんですか? 大森さん。」
事務室から出てきた岩井洋一が不思議そうな顔で芳太郎に聞いた。 「学生時代に荒れていた女が大人になってから静かになるなんて有り得るのかな?」
「何だ。 そんなことか。 ふつうに有りますよ。 ぼくの友達だってそうでしたから。」 「友達?」
「ええ。 酒井友恵って言うんですけど、、、。」 「酒井友恵?」
芳太郎は開いていたノートを閉じると岩井に向き直った。 「どうしたんです?」
「私が調べてるのは栗田友恵という女のことなんだ。」 「栗田友恵、、、。」
岩井はしばらく考えてからスマホを取り出した。 「何か有ったのか?」
芳太郎の問い掛けには答えず岩井はメールを打っている。 しばらくして返事が返ったらしい。
「やっぱりそうですよ。 栗田友恵は酒井友恵が結婚した時の名前です。」 「それはいつだい?」
「そうだなあ、今から10年くらい前になりますか。」 「ありがとう。」
芳太郎はまた堆く積まれた資料を掘り始めた。 どれくらい経ったのだろう?
未解決事件の奇妙なファイルが出てきた。 「これは何だ?」
鹿追町 首の沢で若い女が刺殺されていた事件だ。 8年前の春。
しかもこの事件は凶器も指紋も何も見付かっていない。 ただ〈長い髪の女が言い争っていた。〉という目撃証言が有るだけだ。
被害者の名前も特定されずにここまで来た。 科捜研だって調査を続けているが新しい情報は出てこない。
「迷宮入りするのではないか?」と今から噂されてもいる。 芳太郎は不思議に思った。
(長い髪の女か、、、。) しかしそのような女は探さなくても町中に溢れている。
何処をどう探しても見付からないというのはどういうことなんだろう? 疑問が謎を呼ぶ。
そして被害者の身元さえ分からないというのはどういうことなんだろう? 確かにこれまでにもそんな事件は有った。
新宿で起きたラブホテル殺人事件だってそうだった。 身元が割れなければ被害者は無縁仏として葬らざるを得なくなる。
果たしてそれでいいのだろうか? そりゃあ何十年も捜査をしていられないというのは分かるけど、、、。
「もう一度あの場所に行ってみるか。」 芳太郎はそう思って席を立った。
夕方近く、大通りを警邏隊の車が走り去っていった。 「確か首の沢にはバスが出てたな。」
バス停に着くと時刻表を睨みつけてみる。 首の沢方面 町平プリンセスドーム行き。
16時38分のバスが来る。 あと12分ほどだ。
今日も通りは賑やかである。 滞ることも無くなることも無く車が流れている。
と、、、。 (あれは誰だ?)
何処かで見たような男が歩いてくる。 芳太郎はバス停の陰に隠れた。
男は何かを探しながら歩いている。 それが何だか分からない。
バス停を通り過ぎた時、【パン!】という音がした。 そして、、、。
「おい、撃たれたぞ!」という声があちらこちらから聞こえてきた。 芳太郎が顔を出すと男は口から泡を噴いて倒れている。
私服の警官が打ったらしい男を捕まえていた。 そこに救急車が飛んできた。
「こりゃあとんでもない騒ぎになったな。」 芳太郎も取り敢えず大谷署へ報告を、、、。
「ああ、警部補ですか。 その辺りには松川署の連中が張り付いてるはずですから心配は要りませんよ。」 課長は笑っていた。
後に判明するのだが撃たれた男はたまたまこの辺りを歩いていたサラリーマン。 打った男は川嶋の弟の友達だった。
「こんなんをやられたら川嶋だっておちおち寝れないだろう。」 「だろうなあ。 一般人まで巻き込んだんだから。」
ところが、さらに調べが進むとサラリーマンもふつうの一般人ではないことが分かってきた。 寺本直子の店を持っているパトロンだったのだ。
「あの男が寺本のパトロンだって?」 「そうなんだよ。 だから寺本のあの事件も調べが振出しに戻っちまった。」
「あいつは川嶋たちの女じゃなかったのか?」 「それは表面だけだよ。」
「表面だけ?」 「そうだ。 もっと深い所には今回殺された安倍雄二が居たわけだ。」
「安倍が寺本と何を?」 「寺本は化粧品屋とスナックを持っていた。 そのどちらも安倍が加勢して出させた店なんだよ。」
「しかもスナックには不法滞在の外国人を雇っていた。」 「そこには川嶋も絡んでいたわけだ。」
「ここまでは分かったんだが、その先が読めなくてなあ。」 刑事の一人が黒板を見た。
「山川が何で今頃、、、?」 あの辺りにやつの家でも有るのだろうか?
それにしてはこれまで見たことが無いよな。 あの屋台に毎晩のように寄っているが見掛けたのは初めてだ。
何かをやらかす気じゃないだろうなあ? 本棚から捜査記録を取り出してみる。
しかし何処にも山川の記録は無い。 彼の考えは振出しに戻ってしまった。
(取り敢えず明日は緒方さんと会おう。 寺本の話もしなければ、、、、。)
寺本の情報をくれたのも緒方だった。 まだまだ知られていない情報が有るはずだ。
しかし寺本直子は本当にガス自殺したのだろうか? 用済みで消されたのではないだろうか?
とはいってもまだまだやるべきことは有ったはず。 それに秘密裏に進めていた計画も有ったはずだ。
川嶋にしろ水島にしろ途中で消すようなことはしないだろう。 消してしまえば不利になることは分かっているのだから。
それにしても解けない謎が多過ぎる。 裏社会とはこんなにも面倒なのか?
翌日、芳太郎は早めに家を出た。 そして県庁方面に向かった。
「あれあれ? 大森さんじゃないか。 どうしたんだろう?」 隠れていた捜査員がこそこそと話し合っている。
芳太郎はそんなことには気も止めずにマンションへ入っていった。
「おー、大森君か。 どうしたんだね?」 「寺本直子が消されました。」
「そうか。 やっぱり消されたか。」 「やっぱり?」
「そうだ。 あの女はどちらにも首を突っ込んで動き回っていたんだ。 川嶋も水島も今は戦争状態だからな。」 「寺本の家には男が3人居たそうですが、、、、。」
「おそらくそいつらは事件には関係無いよ。 寺本の家には何人も出入りしてるからね。」 「そうなんですか?」
「ああそうだ。 しかし問題なのは栗田友恵という女だ。 こいつは川嶋の弟の前妻だった女でね。 伊三郎の遺産を狙っていた女だ。」
その時、リビングの窓ガラスに銃弾らしい物が撃ち込まれた。 「私を狙っているらしいね。 君も巻き添えを食わないうちに逃げたほうがいい。」
「緒方さんは?」 「俺なら大丈夫だ。 余計なことを喋らなければやつらは撃ってこないから。」
3時間ほど滞在したところで芳太郎はマンションを出た。 その前を右翼らしい男たちを乗せた車が走り去っていった。
「栗田友恵、、、、、か。 調べてみるかな。」」 彼は捜査本部に顔を出した。
「おやおや? 警部補じゃないですか。 何か御用ですかな?」 珍しく署長が出てきた。
「ちょっと調べ物が有りまして。」 「ほう、珍しいですなあ。」
「行ってきます。」 二人の傍を特戦隊の隊員が駆け抜けていった。
芳太郎は資料室に入ると事件ファイルを捲り始めた。 寺本直子はもちろん、栗田友恵の記録もそうである。
友恵は元は助番だった。 高校時代から不良グループとの付き合いも派手だった。
何度か歩道歴も有るというから逮捕されるような事件も、、、。 そう思ったのだ。
ところが直子に比べたら成人してからの動きが無い。 「どうしたんだろう?」
直子は学生時代はエリート女子学生といった感じだったと聞いている。 それが成人式直後に事件を起こすのである。
以来、恐喝や詐欺などの事件が起きると真っ先に疑われる存在になってしまった。 そして消されたのである。
「不思議なもんだな。」 「何が不思議なんですか? 大森さん。」
事務室から出てきた岩井洋一が不思議そうな顔で芳太郎に聞いた。 「学生時代に荒れていた女が大人になってから静かになるなんて有り得るのかな?」
「何だ。 そんなことか。 ふつうに有りますよ。 ぼくの友達だってそうでしたから。」 「友達?」
「ええ。 酒井友恵って言うんですけど、、、。」 「酒井友恵?」
芳太郎は開いていたノートを閉じると岩井に向き直った。 「どうしたんです?」
「私が調べてるのは栗田友恵という女のことなんだ。」 「栗田友恵、、、。」
岩井はしばらく考えてからスマホを取り出した。 「何か有ったのか?」
芳太郎の問い掛けには答えず岩井はメールを打っている。 しばらくして返事が返ったらしい。
「やっぱりそうですよ。 栗田友恵は酒井友恵が結婚した時の名前です。」 「それはいつだい?」
「そうだなあ、今から10年くらい前になりますか。」 「ありがとう。」
芳太郎はまた堆く積まれた資料を掘り始めた。 どれくらい経ったのだろう?
未解決事件の奇妙なファイルが出てきた。 「これは何だ?」
鹿追町 首の沢で若い女が刺殺されていた事件だ。 8年前の春。
しかもこの事件は凶器も指紋も何も見付かっていない。 ただ〈長い髪の女が言い争っていた。〉という目撃証言が有るだけだ。
被害者の名前も特定されずにここまで来た。 科捜研だって調査を続けているが新しい情報は出てこない。
「迷宮入りするのではないか?」と今から噂されてもいる。 芳太郎は不思議に思った。
(長い髪の女か、、、。) しかしそのような女は探さなくても町中に溢れている。
何処をどう探しても見付からないというのはどういうことなんだろう? 疑問が謎を呼ぶ。
そして被害者の身元さえ分からないというのはどういうことなんだろう? 確かにこれまでにもそんな事件は有った。
新宿で起きたラブホテル殺人事件だってそうだった。 身元が割れなければ被害者は無縁仏として葬らざるを得なくなる。
果たしてそれでいいのだろうか? そりゃあ何十年も捜査をしていられないというのは分かるけど、、、。
「もう一度あの場所に行ってみるか。」 芳太郎はそう思って席を立った。
夕方近く、大通りを警邏隊の車が走り去っていった。 「確か首の沢にはバスが出てたな。」
バス停に着くと時刻表を睨みつけてみる。 首の沢方面 町平プリンセスドーム行き。
16時38分のバスが来る。 あと12分ほどだ。
今日も通りは賑やかである。 滞ることも無くなることも無く車が流れている。
と、、、。 (あれは誰だ?)
何処かで見たような男が歩いてくる。 芳太郎はバス停の陰に隠れた。
男は何かを探しながら歩いている。 それが何だか分からない。
バス停を通り過ぎた時、【パン!】という音がした。 そして、、、。
「おい、撃たれたぞ!」という声があちらこちらから聞こえてきた。 芳太郎が顔を出すと男は口から泡を噴いて倒れている。
私服の警官が打ったらしい男を捕まえていた。 そこに救急車が飛んできた。
「こりゃあとんでもない騒ぎになったな。」 芳太郎も取り敢えず大谷署へ報告を、、、。
「ああ、警部補ですか。 その辺りには松川署の連中が張り付いてるはずですから心配は要りませんよ。」 課長は笑っていた。
後に判明するのだが撃たれた男はたまたまこの辺りを歩いていたサラリーマン。 打った男は川嶋の弟の友達だった。
「こんなんをやられたら川嶋だっておちおち寝れないだろう。」 「だろうなあ。 一般人まで巻き込んだんだから。」
ところが、さらに調べが進むとサラリーマンもふつうの一般人ではないことが分かってきた。 寺本直子の店を持っているパトロンだったのだ。
「あの男が寺本のパトロンだって?」 「そうなんだよ。 だから寺本のあの事件も調べが振出しに戻っちまった。」
「あいつは川嶋たちの女じゃなかったのか?」 「それは表面だけだよ。」
「表面だけ?」 「そうだ。 もっと深い所には今回殺された安倍雄二が居たわけだ。」
「安倍が寺本と何を?」 「寺本は化粧品屋とスナックを持っていた。 そのどちらも安倍が加勢して出させた店なんだよ。」
「しかもスナックには不法滞在の外国人を雇っていた。」 「そこには川嶋も絡んでいたわけだ。」
「ここまでは分かったんだが、その先が読めなくてなあ。」 刑事の一人が黒板を見た。



