寺崎町へ捜査員が向かったのはそれから20分後のことだった。 芳太郎はどうも腑に落ちない顔でウロウロしている。
「警部補、落ち着かないんですか?」 「どうもね、寺本の動きが気になるんだよ。」
「何で?」 「あいつが何もしてないのなら動き回る必要は無いでしょう。 それに駅前での刺殺事件の時に写された写真を見たんだが、、、。」
「写真がどうかしました?」 「微妙に違うんだよ。」
「そりゃさあ、ちょっとくらいは違う所だって、、、。」 「黒子が無いんだよ。」
「何だって?」 「調べてみたんだけど黒子が無いんだ。 切除した跡も確認できないんだよ。」
捜査一課はまたまたざわめいてきた。 そこへ、、、。
「さっきの電話なんですけど、、、。」 「分かったか?」
「声を調べてみました。 寺本ではありません。」 「何だって? 寺本じゃない?」
「おそらくは車に乗っているのも別人です。」 「では寺本は?」
「寺崎町の家で殺されたという女を調べてみます。」 「分かった。 答えを待ってる。」
(これはややこしくなってきたな。) 芳太郎も椅子には座ったがどうも落ち着かない。
「藤間方面の車が割れました。 水谷の妹が動いてます。) 「今度は妹か?」
「そうです。 どうもワゴンで走ってるようです。) 「危ないな。 そのワゴンを割り出してくれ。)
「了解。」 それにしてもなぜ?
寺崎町の家に着いた捜査員は弁当屋の主人から話を聞いた。
「ええ。 あそこに住んでいる女は弁当を毎日のように買ってくれてましてね。」 「毎日?」
「忙しいから食事を作ってる暇が無いんだとか言ってましたよ。」 「そんなに忙しく何をしてたんでしょうか?」
「さあねえ。 私は家の中も見たことが無いから。」 主人は笑った。
そこで寺本直子の家とされている向かいの一軒屋に突入することに、、、。 「あれ? ドアが開かない。」
捜査員は鍵の掛かっている玄関のドアを体当たりでぶち抜いて中へ入った。 「ガスだな。」
「窓という窓を開け放せ! それから火気厳禁だ!」 数人の捜査員が窓を開け放す。
ガスの臭いに蒸せながら室内を見て回る。 ダイニングに入った捜査員が声を上げた。
「寺本だ! 寺本が死んでいる!」 「何だって?」
確かに寺本直子に似た女がダイニングのソファーにもたれるようにして倒れている。 まだそんなに時間が経っていないようだ。
「鑑識を呼んでくれ! 死体はそのままで動かすなよ!」 二人の捜査員を残してあとの数名は二階へ上がっていった。
二階は三つの部屋が有る。 どれも和室のようだ。
その一つに入ってみる。 窓際には本棚が置いてあってノートがぎっしりと詰め込まれている。 その横の棚には貯金通帳が印鑑と共に置いてある。
「無造作ですね。 これでは泥棒に入ってくれって言ってるようなもんじゃないですか。」 「たぶん、泥棒が入るなんて思ってなかったんだろう。 今だって不用心な家は有るもんだ。」
その通帳を開いてみる。 「これは川嶋伊三郎の名義だな。」
「何だって? 川嶋伊三郎の?」 「そうだ。 これで水谷名義の物が出てくれば捜査は楽なんだがなあ。」
その頃、、、。 捜査一課では芳太郎が一人で留守番をしていた。
(それにしてもなぜ寺本が?) どう考えても解けない謎がそこに在る。
伊三郎の襲撃事件以来、警察は振り回されっぱなしのように感じている。 でも謎が解けない。
マンションで行われていたソープも捜査が入ったことで解体された。 そして女たちは強制送還されることになっている。
その後のふとした一瞬を突くように事件が起きた。 そして今、、、。
「そろそろ何か動きが有ってもいいんだがな、、、。」 捜査員たちは目星を付けた車を追っている。
「寺本の家に行っている捜査員から連絡が入りました。」 「何だって?」
「寺本直子が殺されたそうです。」 「え? 殺された?」
「別人じゃないのか?」 「鑑識も入っているんですが本人のようです。」
「死因は?」 「まだ調査中ですが、眠らされた後にガスを吸わされているようなんです。」
「ガス自殺に見せ掛けてるんだな。 よし。 偽物を引っ張れ。」 「了解しました。」
「それにしてもなぜ寺本が?」 「分からん。 伊三郎の通帳を持っていたことも関連してるかもな。 そっちのほうは何か分かったか?」
「2年前に8500万円が引き出されてます。」 「2年前?」
「そう。 川嶋の弟が風営法違反で逮捕された頃です。」 「保釈金か?」
「そのようですね。 弁護士料も入ってるかも。」 「弁護士は確か寺坂洋二だったな。 金の流れを調べてくれ。」
県庁付近では相変わらずの警戒が続いているのだが、的を見失ってしまった感が有ってどうもスッキリしない。
「藤間方面からの車は水谷の妹くらいですね。」 「そうか。 あそこも寂れちまったからなあ。」
「車はステーションワゴンです。 見ていれば気付くでしょうね。」 「そうか。 それでその車には誰か乗っているのか?」
「乗ってません。 ずっと見ているんですが、、、、。」 「おかしいな。 県庁付近に行くってことは何かやりそうなんだけどな。」
すると、、、。 けたたましい警報音が鳴り響いた。
「水谷商会の監視をしていた捜査班が襲撃されました! 応援を願います!」 「何? 襲撃された?」
「そうです。 どうも捜査班の動きを読んでいたやつが居たらしい。」 「分かった。 西部地区第2班 水谷商会へ迎え!」
「了解。 全員で向かいます。」 「気を付けろ。 やつらは機関銃で武装している。」
県警本部からも機動隊が派遣されることになった。 「水谷商会か、、、。 裏を掛かれたな。」
「それにしても誰なんでしょう? 捜査班をやったのは?」 「弟だよ。 やつには暴力団が付いている。 武器なら簡単に集められるさ。」
その現場では救急車も到着してはいるがなかなか近付けないでいる。 近くに建っているマンションから狙ったらしい。
機動隊も突入を試みたが街灯が破壊されていて暗闇の中である。 被害状況もすぐには把握できない。
向かいの廃墟と化したパチンコ屋を拠点として突撃の機会を狙っている。
「投光器が必要だ。 真っ暗では動けない。」 「分かった。 やつらの動きを逐一教えてくれ。」
「了解。」 とはいうものの道路には銃撃を受けた隊員たちが転がっている。
「あれでは手も足も出せないぞ。」 「投光器を何台か用意しましょう。」
「何台もってそれでどうするんだ?」 「マンションの方にも向けるんですよ。 目を眩ますんです。」
「そんなことで怯むようなやつらじゃないぞ。 何を考えてるか分からない。」 「国交省からも証明車を手配しました。」
「それで何とかなればいいんだが、、、。」 「ついでに強力な放水銃も、、、。」
「それならウォーターカッチャー車を用意しましょう。」 「それとだな、ドローンも何機か必要だぞ。」
あれやこれやと作戦が実行されていく。 マンションに立て籠もっている連中の動きは無いようだ。
「しかし、やつらは何を考えてるんでしょう? あれから動きませんね。」 「装備が集まるのを見てるんだろう。」
「見てどうするんですか?」 「集まった所で新たな動きに出るはずだ。 よし。 ウォーターカッターと証明車はマンションの裏に回れ。」
「裏に?」 「あっちは壁になっている。 部屋からは見えないはずだ。」
「でも廊下に、、、。」 「そこには作戦部隊が潜り込んでるよ。」
作戦を見守っているのは副本部長の添田孝臣である。 彼は不気味に笑ってみせた。
「警部補、落ち着かないんですか?」 「どうもね、寺本の動きが気になるんだよ。」
「何で?」 「あいつが何もしてないのなら動き回る必要は無いでしょう。 それに駅前での刺殺事件の時に写された写真を見たんだが、、、。」
「写真がどうかしました?」 「微妙に違うんだよ。」
「そりゃさあ、ちょっとくらいは違う所だって、、、。」 「黒子が無いんだよ。」
「何だって?」 「調べてみたんだけど黒子が無いんだ。 切除した跡も確認できないんだよ。」
捜査一課はまたまたざわめいてきた。 そこへ、、、。
「さっきの電話なんですけど、、、。」 「分かったか?」
「声を調べてみました。 寺本ではありません。」 「何だって? 寺本じゃない?」
「おそらくは車に乗っているのも別人です。」 「では寺本は?」
「寺崎町の家で殺されたという女を調べてみます。」 「分かった。 答えを待ってる。」
(これはややこしくなってきたな。) 芳太郎も椅子には座ったがどうも落ち着かない。
「藤間方面の車が割れました。 水谷の妹が動いてます。) 「今度は妹か?」
「そうです。 どうもワゴンで走ってるようです。) 「危ないな。 そのワゴンを割り出してくれ。)
「了解。」 それにしてもなぜ?
寺崎町の家に着いた捜査員は弁当屋の主人から話を聞いた。
「ええ。 あそこに住んでいる女は弁当を毎日のように買ってくれてましてね。」 「毎日?」
「忙しいから食事を作ってる暇が無いんだとか言ってましたよ。」 「そんなに忙しく何をしてたんでしょうか?」
「さあねえ。 私は家の中も見たことが無いから。」 主人は笑った。
そこで寺本直子の家とされている向かいの一軒屋に突入することに、、、。 「あれ? ドアが開かない。」
捜査員は鍵の掛かっている玄関のドアを体当たりでぶち抜いて中へ入った。 「ガスだな。」
「窓という窓を開け放せ! それから火気厳禁だ!」 数人の捜査員が窓を開け放す。
ガスの臭いに蒸せながら室内を見て回る。 ダイニングに入った捜査員が声を上げた。
「寺本だ! 寺本が死んでいる!」 「何だって?」
確かに寺本直子に似た女がダイニングのソファーにもたれるようにして倒れている。 まだそんなに時間が経っていないようだ。
「鑑識を呼んでくれ! 死体はそのままで動かすなよ!」 二人の捜査員を残してあとの数名は二階へ上がっていった。
二階は三つの部屋が有る。 どれも和室のようだ。
その一つに入ってみる。 窓際には本棚が置いてあってノートがぎっしりと詰め込まれている。 その横の棚には貯金通帳が印鑑と共に置いてある。
「無造作ですね。 これでは泥棒に入ってくれって言ってるようなもんじゃないですか。」 「たぶん、泥棒が入るなんて思ってなかったんだろう。 今だって不用心な家は有るもんだ。」
その通帳を開いてみる。 「これは川嶋伊三郎の名義だな。」
「何だって? 川嶋伊三郎の?」 「そうだ。 これで水谷名義の物が出てくれば捜査は楽なんだがなあ。」
その頃、、、。 捜査一課では芳太郎が一人で留守番をしていた。
(それにしてもなぜ寺本が?) どう考えても解けない謎がそこに在る。
伊三郎の襲撃事件以来、警察は振り回されっぱなしのように感じている。 でも謎が解けない。
マンションで行われていたソープも捜査が入ったことで解体された。 そして女たちは強制送還されることになっている。
その後のふとした一瞬を突くように事件が起きた。 そして今、、、。
「そろそろ何か動きが有ってもいいんだがな、、、。」 捜査員たちは目星を付けた車を追っている。
「寺本の家に行っている捜査員から連絡が入りました。」 「何だって?」
「寺本直子が殺されたそうです。」 「え? 殺された?」
「別人じゃないのか?」 「鑑識も入っているんですが本人のようです。」
「死因は?」 「まだ調査中ですが、眠らされた後にガスを吸わされているようなんです。」
「ガス自殺に見せ掛けてるんだな。 よし。 偽物を引っ張れ。」 「了解しました。」
「それにしてもなぜ寺本が?」 「分からん。 伊三郎の通帳を持っていたことも関連してるかもな。 そっちのほうは何か分かったか?」
「2年前に8500万円が引き出されてます。」 「2年前?」
「そう。 川嶋の弟が風営法違反で逮捕された頃です。」 「保釈金か?」
「そのようですね。 弁護士料も入ってるかも。」 「弁護士は確か寺坂洋二だったな。 金の流れを調べてくれ。」
県庁付近では相変わらずの警戒が続いているのだが、的を見失ってしまった感が有ってどうもスッキリしない。
「藤間方面からの車は水谷の妹くらいですね。」 「そうか。 あそこも寂れちまったからなあ。」
「車はステーションワゴンです。 見ていれば気付くでしょうね。」 「そうか。 それでその車には誰か乗っているのか?」
「乗ってません。 ずっと見ているんですが、、、、。」 「おかしいな。 県庁付近に行くってことは何かやりそうなんだけどな。」
すると、、、。 けたたましい警報音が鳴り響いた。
「水谷商会の監視をしていた捜査班が襲撃されました! 応援を願います!」 「何? 襲撃された?」
「そうです。 どうも捜査班の動きを読んでいたやつが居たらしい。」 「分かった。 西部地区第2班 水谷商会へ迎え!」
「了解。 全員で向かいます。」 「気を付けろ。 やつらは機関銃で武装している。」
県警本部からも機動隊が派遣されることになった。 「水谷商会か、、、。 裏を掛かれたな。」
「それにしても誰なんでしょう? 捜査班をやったのは?」 「弟だよ。 やつには暴力団が付いている。 武器なら簡単に集められるさ。」
その現場では救急車も到着してはいるがなかなか近付けないでいる。 近くに建っているマンションから狙ったらしい。
機動隊も突入を試みたが街灯が破壊されていて暗闇の中である。 被害状況もすぐには把握できない。
向かいの廃墟と化したパチンコ屋を拠点として突撃の機会を狙っている。
「投光器が必要だ。 真っ暗では動けない。」 「分かった。 やつらの動きを逐一教えてくれ。」
「了解。」 とはいうものの道路には銃撃を受けた隊員たちが転がっている。
「あれでは手も足も出せないぞ。」 「投光器を何台か用意しましょう。」
「何台もってそれでどうするんだ?」 「マンションの方にも向けるんですよ。 目を眩ますんです。」
「そんなことで怯むようなやつらじゃないぞ。 何を考えてるか分からない。」 「国交省からも証明車を手配しました。」
「それで何とかなればいいんだが、、、。」 「ついでに強力な放水銃も、、、。」
「それならウォーターカッチャー車を用意しましょう。」 「それとだな、ドローンも何機か必要だぞ。」
あれやこれやと作戦が実行されていく。 マンションに立て籠もっている連中の動きは無いようだ。
「しかし、やつらは何を考えてるんでしょう? あれから動きませんね。」 「装備が集まるのを見てるんだろう。」
「見てどうするんですか?」 「集まった所で新たな動きに出るはずだ。 よし。 ウォーターカッターと証明車はマンションの裏に回れ。」
「裏に?」 「あっちは壁になっている。 部屋からは見えないはずだ。」
「でも廊下に、、、。」 「そこには作戦部隊が潜り込んでるよ。」
作戦を見守っているのは副本部長の添田孝臣である。 彼は不気味に笑ってみせた。



