捜査員がどよめいたのはそれから4時間ほど経った頃だった。 「寺本直子が現れました。」
「何だって? 寺本が?」 「そうです。 軽自動車に乗って走ってきました。」
「おいおい、大森警部補の話では軽自動車を運転していたのは男だぞ。」 「それがどうもおかしいんです。 中には寺本直子しか乗っていないらしくて、、、。」
「変だな。 軽自動車じゃ二人目が隠れるようなスペースは無いはずだ。」 「何処かで乗り換えたんでしょうか?」
「それは考えにくいよ。 あっちこっちで捜査員が目を光らせてるんだから。」 「そうでしょうか?」
捜査一課では出発準備をしていた捜査員たちが地図を見ながら話している。 「これじゃあ抜け道は無いなあ。」
一人がぼやいていると、、、。 「寺崎町だろう? だったら藤間トンネルが有るじゃないか。 あそこは誰も見ていないはずだぞ。」
「藤間?」 「そうだ。 この辺りだよ。」
確かにここには配置されていなかった。 最近ではほとんど使われていない知る人ぞ知る道だったからだ。
「藤間から県庁方面には一本で行ける。 何かやらかそうと思えば簡単だよ。」 警部の浅川次郎である。
彼は長い煙草を吹かしながら無線を手に取った。
「県庁方面には誰が居る?」 「佐伯巡査長です。」
「分かった。 これから2時間以内に寺本が動くはずだ。 ガードを固めるように。」 「了解しました。」
「2時間以内?」 「そうだ。 午後5時半。 この辺りで何かが起きる。」
浅川はニヤリと笑った。 その確信が何処から来るのか?
誰もその謎を解けないでいるが、浅川は無線を手に取った。
「藤間から県庁方面へ向かった車が他に無いか大至急調べてくれ。」 「分かりました。」
「それから大森警部補に一課へ戻ってくるように伝えてくれ。」 「了解しました。」
捜査一課は俄かに慌ただしくなってきた。 「やつらの凶行を抑えなければ、、、。」
「そうは言うけど手は有るのか?」 「警部、寺本と川嶋のスマホが割れました。」
「そうか。 ショートメールで攪乱できそうか?」 「試しに流してみます。」
捜査員は文面を考えた。 「ぜひあなたと素敵な夜を過ごしたいです。 まあいいか。」
1990年代から2000年代にかけて秘かに問題視されていたワンショットを投げてみる。 「使えそうですね。」
「よし。 じゃあ動きを見ながら投げ込むんだ。」 「了解。」
「ああ、大森警部補ですか? 寺本が県庁付近に現れました。」 「何だって?」
「警部補が確認したのは男装した寺本です。」 「男装?」
「至急、一課に戻ってください。 作戦会議です。」 「分かった。」
芳太郎は弁当屋を離れてバス停へ急いだ。 もう夕方である。
その頃、県庁付近では、、、。
「寺本は何をするつもりなんでしょう?」 「分からん。 この辺りには目星い建物も無いし、、、。」
軽自動車は駐車場に入ったまま出てこない。 運転席の直子も誰かを待っているような素振りである。
「あれは誰を待っているんでしょうか?」 「おそらくは川嶋だろう。」
「そうとは思えないんですけど、、、。」 「何で?」
「水谷がやられた今、川嶋に接近する理由は有りますか?」 「金だよ。」
「金?」 「そう。 やつは何処かへ逃げようとしている。 その軍資金だ。」
「何のために?」 「伊三郎が殺されただろう。 そして水谷もやられた。 そうなれば警察は自分をマークしてくる。 そう思うのは常だろう。」
「だからって今逃げたら、、、。」 「そこに何らかの作戦が有るんだ。」
「じゃあ、俺たちのガードを潜り抜けるために?」 「そうだろうな。」
「潜り抜けると言ってもどうやって?」 「替え玉ですよ。」
「替え玉?」 「そう。 最初に出てきた男が居るでしょう?」
「あの男か?」 「そいつを替え玉に使うんですよ。」
「とは言っても無理が有るんじゃないのか?」 「そう思うからやつらの手に引っかかるんです。 現にコンビニの一件はどうなりました?」
「そういえば、、、。」 捜査員の一人は無線を取った。
「水谷商会の前には誰が居る?」 「吉岡です。」
「あのコンビニの一件はどうなった?」 「それでしたらもうすぐ中身が取れます。」
「中身?」 「やっと店員が口を割ったんですよ。」 「そうか。 速く知らせてくれ。」
「了解しました。」 それから30分ほどして芳太郎が戻ってきた。
「ご苦労さん。」 「こちらはどうなってますか?」
「どうもこうもさっぱり分からん。 いったい何処で誰が何をしたいのか、、、。」
「緒方さんの話を聞いてきました。」 「何か言ってたか?」
「伊三郎が消された日、川嶋の弟と寺本が会っていたそうです。」 「それで?」
「知り合いから聞いた話だと寺本はメキシコに逃げようとしているらしいですね。」 「メキシコ?」
「なんでも川嶋の弟に誘われたんだそうですよ。」 「メキシコにねえ。」
「店員の聴取が終わりました。」 「どうだった?」
「ええ。 海外の銀行と取引をしていたそうです。」 「何だって? 海外?」
「そうです。 おそらくアメリカではないかと、、、。」 「よし。 銀行を虱潰しに当たれ。」
「了解。」 「さて5時過ぎたな。 ここからだぞ。」
そう思っていると、、、。 「寺本の車が出てきました。」
「追跡しろ。」 「了解。」
「寺本が動き出しましたね。」 「何をする気なんだ?」
そこへ電話が、、、。 「もしもし、、、。」
「あなたたちは私を追い掛けてるようね? 私は捕まらないわよ。 何もしてないんだから。」 一方的にそう言うと電話は切れた。
「発信元は分かるか?」 「調べてます。」
「どうも変だな。 何もしていない寺本がなぜ動き回るんだ?」
そこへまた電話が、、、。 「もしもし、、、。」
「ああ、警察さんかい? 弁当屋 お多福の者なんだが、、、。」 「お多福? そんな店有ったかな?」
「昼間に刑事さんが来たんだが、、、。」 「もしかして大森警部補?」
「誰かは知らんが、向かいの家を見ておった人だよ。」 「大森警部補が何か?」
「いやいや、その人が見ておった家出人が殺されたんじゃ。」 「何だって? 殺された?」
「そう。 女だ。」 「女、、、。 もしかして寺本直子?」
「名前までは知らんが若い女だよ。」 電話を切った警部は真っ蒼になった。
「どうしたんです?」 「寺本の家で女が殺された。 大至急現場に行ってくれ。」
捜査員が飛び出すのと入れ違いに芳太郎が戻ってきた。 「おー、警部補。 大変ですよ。」
「何がです?」 「寺本の家で女が殺されました。」
「何だって?」 「寺本直子ではないようですが、、、。」
「しかし、あの家には、、、。」 「たぶん、他にも人間が居たんでしょう。 それを一人ずつ外へ出していたわけですよ。」
「そして最後に残ったのが女。」 「それが消された。」
「自殺か他殺化はこれからの調べですが、、、。」
「水谷商会に突っ込んだトラックの身元が分かりました。」 「誰だったんだ?」
「どちらも水谷商会の系列会社の物です。」 「何だって? 系列会社のトラックが突っ込んだのか?」
「どうも川嶋がやったように偽装したようなんです。」 「何でまたそんなことを?」
「深いことは分かりませんが、川嶋に俺たちの目を向かせて何かやるつもりでは?」
「身内のトラックか。 それなら中が空っぽでもいいわけだ。 やりやがった。」 「でも誰が仕組んだんでしょう?」
「寺本だよ。 やつなら両方の出方を知っている。 どちらも恨みつらみは深いだろうからね。」 「恨みつらみか、、、。」
「何だって? 寺本が?」 「そうです。 軽自動車に乗って走ってきました。」
「おいおい、大森警部補の話では軽自動車を運転していたのは男だぞ。」 「それがどうもおかしいんです。 中には寺本直子しか乗っていないらしくて、、、。」
「変だな。 軽自動車じゃ二人目が隠れるようなスペースは無いはずだ。」 「何処かで乗り換えたんでしょうか?」
「それは考えにくいよ。 あっちこっちで捜査員が目を光らせてるんだから。」 「そうでしょうか?」
捜査一課では出発準備をしていた捜査員たちが地図を見ながら話している。 「これじゃあ抜け道は無いなあ。」
一人がぼやいていると、、、。 「寺崎町だろう? だったら藤間トンネルが有るじゃないか。 あそこは誰も見ていないはずだぞ。」
「藤間?」 「そうだ。 この辺りだよ。」
確かにここには配置されていなかった。 最近ではほとんど使われていない知る人ぞ知る道だったからだ。
「藤間から県庁方面には一本で行ける。 何かやらかそうと思えば簡単だよ。」 警部の浅川次郎である。
彼は長い煙草を吹かしながら無線を手に取った。
「県庁方面には誰が居る?」 「佐伯巡査長です。」
「分かった。 これから2時間以内に寺本が動くはずだ。 ガードを固めるように。」 「了解しました。」
「2時間以内?」 「そうだ。 午後5時半。 この辺りで何かが起きる。」
浅川はニヤリと笑った。 その確信が何処から来るのか?
誰もその謎を解けないでいるが、浅川は無線を手に取った。
「藤間から県庁方面へ向かった車が他に無いか大至急調べてくれ。」 「分かりました。」
「それから大森警部補に一課へ戻ってくるように伝えてくれ。」 「了解しました。」
捜査一課は俄かに慌ただしくなってきた。 「やつらの凶行を抑えなければ、、、。」
「そうは言うけど手は有るのか?」 「警部、寺本と川嶋のスマホが割れました。」
「そうか。 ショートメールで攪乱できそうか?」 「試しに流してみます。」
捜査員は文面を考えた。 「ぜひあなたと素敵な夜を過ごしたいです。 まあいいか。」
1990年代から2000年代にかけて秘かに問題視されていたワンショットを投げてみる。 「使えそうですね。」
「よし。 じゃあ動きを見ながら投げ込むんだ。」 「了解。」
「ああ、大森警部補ですか? 寺本が県庁付近に現れました。」 「何だって?」
「警部補が確認したのは男装した寺本です。」 「男装?」
「至急、一課に戻ってください。 作戦会議です。」 「分かった。」
芳太郎は弁当屋を離れてバス停へ急いだ。 もう夕方である。
その頃、県庁付近では、、、。
「寺本は何をするつもりなんでしょう?」 「分からん。 この辺りには目星い建物も無いし、、、。」
軽自動車は駐車場に入ったまま出てこない。 運転席の直子も誰かを待っているような素振りである。
「あれは誰を待っているんでしょうか?」 「おそらくは川嶋だろう。」
「そうとは思えないんですけど、、、。」 「何で?」
「水谷がやられた今、川嶋に接近する理由は有りますか?」 「金だよ。」
「金?」 「そう。 やつは何処かへ逃げようとしている。 その軍資金だ。」
「何のために?」 「伊三郎が殺されただろう。 そして水谷もやられた。 そうなれば警察は自分をマークしてくる。 そう思うのは常だろう。」
「だからって今逃げたら、、、。」 「そこに何らかの作戦が有るんだ。」
「じゃあ、俺たちのガードを潜り抜けるために?」 「そうだろうな。」
「潜り抜けると言ってもどうやって?」 「替え玉ですよ。」
「替え玉?」 「そう。 最初に出てきた男が居るでしょう?」
「あの男か?」 「そいつを替え玉に使うんですよ。」
「とは言っても無理が有るんじゃないのか?」 「そう思うからやつらの手に引っかかるんです。 現にコンビニの一件はどうなりました?」
「そういえば、、、。」 捜査員の一人は無線を取った。
「水谷商会の前には誰が居る?」 「吉岡です。」
「あのコンビニの一件はどうなった?」 「それでしたらもうすぐ中身が取れます。」
「中身?」 「やっと店員が口を割ったんですよ。」 「そうか。 速く知らせてくれ。」
「了解しました。」 それから30分ほどして芳太郎が戻ってきた。
「ご苦労さん。」 「こちらはどうなってますか?」
「どうもこうもさっぱり分からん。 いったい何処で誰が何をしたいのか、、、。」
「緒方さんの話を聞いてきました。」 「何か言ってたか?」
「伊三郎が消された日、川嶋の弟と寺本が会っていたそうです。」 「それで?」
「知り合いから聞いた話だと寺本はメキシコに逃げようとしているらしいですね。」 「メキシコ?」
「なんでも川嶋の弟に誘われたんだそうですよ。」 「メキシコにねえ。」
「店員の聴取が終わりました。」 「どうだった?」
「ええ。 海外の銀行と取引をしていたそうです。」 「何だって? 海外?」
「そうです。 おそらくアメリカではないかと、、、。」 「よし。 銀行を虱潰しに当たれ。」
「了解。」 「さて5時過ぎたな。 ここからだぞ。」
そう思っていると、、、。 「寺本の車が出てきました。」
「追跡しろ。」 「了解。」
「寺本が動き出しましたね。」 「何をする気なんだ?」
そこへ電話が、、、。 「もしもし、、、。」
「あなたたちは私を追い掛けてるようね? 私は捕まらないわよ。 何もしてないんだから。」 一方的にそう言うと電話は切れた。
「発信元は分かるか?」 「調べてます。」
「どうも変だな。 何もしていない寺本がなぜ動き回るんだ?」
そこへまた電話が、、、。 「もしもし、、、。」
「ああ、警察さんかい? 弁当屋 お多福の者なんだが、、、。」 「お多福? そんな店有ったかな?」
「昼間に刑事さんが来たんだが、、、。」 「もしかして大森警部補?」
「誰かは知らんが、向かいの家を見ておった人だよ。」 「大森警部補が何か?」
「いやいや、その人が見ておった家出人が殺されたんじゃ。」 「何だって? 殺された?」
「そう。 女だ。」 「女、、、。 もしかして寺本直子?」
「名前までは知らんが若い女だよ。」 電話を切った警部は真っ蒼になった。
「どうしたんです?」 「寺本の家で女が殺された。 大至急現場に行ってくれ。」
捜査員が飛び出すのと入れ違いに芳太郎が戻ってきた。 「おー、警部補。 大変ですよ。」
「何がです?」 「寺本の家で女が殺されました。」
「何だって?」 「寺本直子ではないようですが、、、。」
「しかし、あの家には、、、。」 「たぶん、他にも人間が居たんでしょう。 それを一人ずつ外へ出していたわけですよ。」
「そして最後に残ったのが女。」 「それが消された。」
「自殺か他殺化はこれからの調べですが、、、。」
「水谷商会に突っ込んだトラックの身元が分かりました。」 「誰だったんだ?」
「どちらも水谷商会の系列会社の物です。」 「何だって? 系列会社のトラックが突っ込んだのか?」
「どうも川嶋がやったように偽装したようなんです。」 「何でまたそんなことを?」
「深いことは分かりませんが、川嶋に俺たちの目を向かせて何かやるつもりでは?」
「身内のトラックか。 それなら中が空っぽでもいいわけだ。 やりやがった。」 「でも誰が仕組んだんでしょう?」
「寺本だよ。 やつなら両方の出方を知っている。 どちらも恨みつらみは深いだろうからね。」 「恨みつらみか、、、。」



