オレは突然のアキラの涙に、矢に射抜かれたような衝撃を受けた。
 
 アキラはそのまましゃがみこむ。嗚咽を押さえても涙は止まらない。

 ――ビックリした。

 まるで女の子が泣くところを、初めて見たかのように……胸を衝かれた。


「……うれしい……私、うれしくて……」

 二年前のあの夜……思えばアキラは、けして泣かなかった。


 手術の恐怖、病気との葛藤、知らない土地への不安、一人きりの孤独感……そんなものを抱えてたはずなに……。

 あの強がりは、弱い自分に負けないための精一杯の虚勢……。

 本当は弱くて、脆くて、儚くて、でも、それに負けないように精一杯頑張ってる……アキラは変わってなんか、いなかった。

 しゃがみこむアキラが、二年前のアキラと重なって見える……

 どんなに背が伸びようが、大きくなろうが、アキラはやっぱりアキラなんだ……

 オレはそのまま、しゃがんでいるアキラの肩を背中から抱え込んだ。
 
 なんだか、そうしたかった。

 見ためより、ずっと小さく感じた。

「皓平……」
「ん?」
「私、やっぱり神様信じるよ」
「え?」

「きっと、だれの中にも神様はいて……もしかしたら皓平は、私にとって神様だったのかもね」

 何を言い出すんだと……正直慌てた。

 オレは平凡で、何の取り柄もない、普通の人間だし、これからもそうだろう。だけどこんなオレでも、だれかの役に立てたなら……うれしい……。

 必要とされたことが、うれしい……こんな気持ち初めてだ。

「私……皓平と逢えて、よかった」

 アキラの顔を照らす朝日が、他のものも染めていく……

 暗くて何の色もついてなかった世界を、染めていく……
 

 こんな朝焼け見たことない。

 闇を溶かすように、朝日は空に景色に……広がっていった。

 今まで知らなかった……世界ってこんなに綺麗だったんだ。

 世界が、色づきはじめたのだと思ったけど……それは違う。


 きっとオレの方が変わったんだ。

(アキラとの出会いが、オレを変えた――)

 アキラの横で見るほかの景色は、どんなだろうか?

 この先もずっと、色んな景色をアキラの隣で見てみたいな……


 ……なんて、ふと思ったけど、

「皓平……?」
「……うん……オレも、アキラに逢えてよかった……」

 今のオレには、これが精一杯だった。


 いつか……この時感じた素直な気持ちを、伝えられる日が来るといいなと、アキラの横顔を見つめながら……そう思った。

***


 もし君が約束の地へたどり着いて、神様と出会ったなら……

 君の本当の望みは、叶えられるだろう……

 もし彼女がオレの神様なら、オレの本当の望みも、幸せも……


――彼女にしか、叶えられない。



おわり