ヴァンパイア王子と秘密の甘い独占契約

「やっと着いた……」


しばらくして。人気のない廊下にたどり着いた私は、【備品室】と書かれたプレートが下げられたドアを開けた。


備品室といっても、不用品でごちゃごちゃした物置き同然の部屋だけど。


一人になりたい時にここにいるだけで、なぜかとても心が落ち着くんだ。


部屋の中に入ってドアを閉めた後、自分の手首の内側の匂いをかいでみる。


「うん。やっぱり……」


思った通りだ。


今朝、念入りにふったはずの香水の匂いがほとんど消えていた。


たぶん、さっきまで委員会の当番で、温室のバラの手入れをしていたからだろう。


作業中、暑くて汗をかいていたせいで、香水の匂いが流れて消えてしまったみたい。


入学して知ったんだけど、どうやらヴァンパイアは、『人間の匂い』をかぎ取れるほど鼻がきくらしい。


私にはわからないけど、その『人間の匂い』とやらがあるならば少しでもごまかそうと思って、いつも香水をふっている。