ヴァンパイア王子と秘密の甘い独占契約

さっきまであんなに泣いてわめいて怒っていたのに。今はさっぱり忘れたかのように、不気味に眼光を光らせている。


その光は、だいぶ昔に漫画で見た、血を求めて人間を追い詰めるヴァンパイアとまるっきり同じもの。


「前から思ってたんだよね。桧山さんの部屋だけいつも窓が開かないし、出て行った形跡もないから、どうやって血を飲みに行ってるんだろうって」

「ときどき部屋の前を通ると、カレーやラーメンみたいな、人間の食事の匂いがしていたこともあったっけ」

「それで今、人間の匂いの発生源は、桧山さんからってわけなんだけど。どうなの?」


じりじりと私を追い詰めていく彼女達の言葉に、自分がどれだけバカで詰めが甘い人間かと思い知らされる。


だいたい、香水で人間の匂いをごまかして、周りに話を合わせていれば、ヴァンパイアとして溶け込めるなんて、浅はかな考えだとしか思えない。


普段の何気ない行動や、ちょっとしたすきをちゃんと覚えていて、「おかしいな」って疑う人もいる。


見ている人はちゃんと見ているんだ。


それが、名前も知らない人だとしても。


そんな単純で大切なことを、頭からすっぽり抜け落としてしまってた自分が、本当に情けなくて、また涙があふれてしまいそうになる。


「返事がないってことは、人間だとみなすけど」


さっきまで黙っていた姫咲さんが、一歩私に近付いた。


「すごくいい匂い。おいしそう……」


姫咲さんの唇の隙間から、小さな白い牙がちらりと顔を出して、とがった先がキランと光った。


私、このままだと、姫咲さんやその周りにいる取り巻き達に、血を吸われちゃうのかな。


もしそんなことになったら、血どころか、命がいくつあっても足りなくなりそう……。


――、御影くん以外の人に、私の血を飲ませたくない!