婚約者の心の声を知りたいと流れ星に願ったら叶ってしまった

 眼前に迫るナイフの刃を寸前で避け、犯人の後ろに回り込んだ。
 悪者に情けは無用。足払いをかけて相手が体勢を崩した瞬間を狙い、手首をひねり上げ、壁際までぶんっと投げ飛ばした。
 その物音で「なにか音がしたぞ!」「あっちだ!」という声が遠くから聞こえた。
 警備兵と野次馬が集まってくる気配を感じ、反射的に振り返る。すると、そこには目を見開いた状態のエリオルがいた。
 そこでようやくレティシアは我に返った。

(ああ、お父様。約束を守れなくてごめんなさい……!)

 今まで淑やかな令嬢らしく心がけていたのに、なんたる失態。
 どう取り繕っても、普通の令嬢としてあるまじき行動だ。さあっと血の気が引く。

(ど、どうしましょう……。結婚するまでは、おとなしくしているようにと厳重注意されていましたのに。こんな女、引かれるに決まっています)

 国境を守る辺境伯の娘として、レティシアは小さい頃から護身術をたたき込まれている。
 地域の特性上、不法入国者や国外逃亡を図る犯罪者を取り締まることも多く、ライセットの領民は自分の身は自分で守れるように教育を受ける。