青春の坂道で

 それからそっと下宿に入っていく。 おばさんを起こすとうるさいからなあ。
真っ暗な廊下を歩いて階段を上がる。 2階の奥のほうから騒ぐ声が聞こえる。
「またやってんのか。 飽きない連中だなあ。」 「子供ですから。」
「ブ、、、。」 「何噴き出してるんですか? 帰りますよ。」
「ダメダメ。 今夜は人質なんだから。」 「やだあ。 怖い。」
 背中にくっ付いてくる綾子を抱いてみる。 「一郎さんの傍に居たい。」
「ずーーーーーーっと居る気?」 「そうですよ。 好きなんだから。」
「そっか。 好きなのか。」 部屋の鍵を開ける。
「さあて、寝ようかな。」 「もうですか?」
「あのなあ、もう真夜中なんだぞ。」 「分かってます。 言ってみただけ。」
「意地悪。」 「どっちがかなあ?」
「どっちもだよ。」 「どっちもなのか。 面白くないなあ。」
「寝るぞ。」 不満そうな綾子を見ながら俺は毛布をかぶった。


 さてさて翌日、目を覚ました俺は目が点になった。 綾子が俺の上に乗っている。
「こらこら、下りてくれよ。 ロマンス映画じゃないんだから。」 「え? 今何時?」
「8時ですが何か?」 「私、一郎さんの上に乗ってたのね? ああ恥ずかしい。」
「まあいいけどさあ、、、他人じゃないし。」 「でもやっぱり恥ずかしい。 好きなのは好きなんですけど、、、。」
 綾子は毛布を畳みながら真っ赤な顔をしている。 「赤くなるのも可愛いなあ。」
「やだやだ。 見ないでくださいよ。」 「見ちゃったもん。」
「ほんとに意地悪なんだから。」 「でも好きなんだろう?」
「それはもちろん、、、。」 俺は立ち上がると炊飯器を覗いた。 「まだ有るな。」
「何か?」 「朝飯でも食べないか?」
「そうですねえ。」 そこで俺はお椀にご飯をたっぷりと盛り付けてお茶をぶっかけて綾子の前に置いた。
「梅干しも高菜漬けも有るから言ってね。」 「お茶漬けか。 さっぱりしてていいですねえ。」
「だろう? 朝はお茶漬けだ。」 「毎朝だと飽きるけどなあ。」
 何かやると何か言う。 まるで大助花子。
そのうちに綾子はハリセンを持ち歩くようになるんじゃないか? そう思うなあ 俺は。
 何か言うとバシッてやられそう。 うん、サカイ引越センター。
お茶漬けを掻き込んで揃ってゼミに行く準備を、、、。 「ああ、早く終りますように。」
「私に願掛けするんですか?」 「だって恵比寿様だもん。」
「あのーーー、商売の神様じゃないんですけど、、、。」 「いいじゃん。 神様なら何でも恋だぜ。」
「まったくもう、、、これなんだからなあ。 女だったら何でもいいと思って。」 どっかの親父さんみたいだなあ。
 そんなわけで二人揃って玄関を出て行くわけですよ。 おばさんはまたまた怪訝そうな顔で見送ってくれてます。
校門まで来ると綾子はニコニコしながら手を振ってきます。 「一郎さんも寝ないで頑張ってくださいねえ。」
「オー‼」 それを見付けた宮下浩二が詰め寄ってきた。
「お前、あの子にほの字だな?」 「うわ、ゴキブリーーーーーー。」
「こら待て‼ 話は済んでないぞ‼ 待てこらーーーーーー‼」 宮下を振り切って教室へ、、、。
 ゼミが始まるまであと1時間。 寝ちまいそうだなあ。
暖かい日差しの中でボーっとしている。 何とも言えないなあ。
綾子とも慣れてきたし居酒屋ももうすぐ2年目。 これからだなあ。
 そう思いながらぼんやりしていた俺はいつの間にか寝てしまった。 気付いてみるとまたまた静かである。
「あれあれ? ゼミはまだかな?」 そう思いながら時計を覗き込んでみる。
「え? 12時半? まいったなあ、すっかり寝てしまった。」 何とも言えない複雑な気持ちで教室を出る。
午後は何も無いから後は部屋に帰るだけ。 校門の所にまで来ると何処に居たのか綾子が走ってきた。
 「一郎さん お昼はどうするんですか?」 「あの食堂に行くよ。」
「じゃあお供します。」 やっぱり今日も綾子は楽しそうに付いてくる。
 「こんにちはーーー。」 食堂のドアを開けて声を掛ける。 奥の部屋からおじいさんが出てきた。
「いらっしゃい。 今日は何を食べますか?」 綾子はメニュー表を見ている。
 「チャーシュー炒飯とかきたま汁を、、、。」 「じゃあ俺は、、、塩ラーメンと焼き餃子を。」
「畏まりました。 お待ちくださいね。」 それからおじいさんはフライパンを持って炒飯を作り始めた。
 「いい匂いだねえ。」 「そうですねえ。 ニンニクのこの匂いは堪らないわ。」
水を飲みながら顔を見合わせる。 ジュージューと美味そうな音が聞こえている。
 「お待たせしました。」 チャーハンをテーブルに置く。
「美味そうだなあ。」 「一郎さんも食べる?」
「俺はこの次にするよ。」 「うーーん、美味しい。」